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受け入れの為の準備期間を経て、五人の女性達が宮東家に居住まいを移したのは、叶糸達の結婚生活がもう直ぐ三年目に突入するかといった頃だった。当初は彼女達も弁えた態度を取っていた。夫夫の間に割って入る異物であると、五人全員でという無茶な提案を叶糸に受け入れて貰った側なのだと、自覚している様子でもあった。
五人とも過去に辛い経験をした女性達だ。きちんと契約書も交わしたと聞き、渋々ながらも宮東の意思決定に従い五人を屋敷に招き入れはしたが、叶糸は尚も不安だった。
彼氏の浮気に長年悩んでいたが、そもそも自分が本命ではなかったと知り、苦しんでいた子。
交際相手からのDVにより、精神的にも逃げられずにいたところを助けてもらった子。
成績でしか子供を評価しない親からの重圧に押し潰されそうになっていた子。
ホストにハマり、支払いの為に身売りをしていた子。
毒親の過干渉で、がんじがらめにされていた子——
皆、一番苦しかった時に宮東に助けてもらったのだ。叶糸もその一人なので共感出来なくもないのだが、彼女達の妄執ぶりは、傍から見ていて異常に感じられる程だった。学生時代は宮東が何処に行くにも彼女達が周囲を囲み、かいがいしく彼の世話を焼き、何をするにも一緒だった。その為だけに全員同じ学部に転部までしたそうだ。しかも、どう見ても全員宮東に惚れている。そんな子達と同じ屋敷に住んで、本当に何事もなく終わるのだろうか、と思うのは当然の疑問だった。
同居を始めるなり、早速彼女達はメイドが如く屋敷内で働き始めたのだが、その労力は全て宮東の世話のみに注がれていた。彼の食事だけを作り、部屋の掃除をし、洗濯どころか、風呂の手伝いまでしていたらしい。屋敷の管理や仕事の手伝いまで買って出る者もいたのだが、宮東に『それは叶糸の役目だから』と一線を引かれ、……芽生えた対抗心は叶糸へと向いた。
屋敷で働く者達も、主人が誰なのかを履き違える事はなかった。どれほど宮東の身の回りを世話していようとも、主人として接する相手は終始叶糸ただ一人だった。その現実もまた、彼女達の焦燥を静かに煽っていく。
だけど、宮東の言う通り『屋敷の主人』はあくまでも叶糸なのだ。
貴族夫人達との交流も、屋敷で働く者達への指示管理も、領地経営の補佐といった秘匿義務のある作業も全て。子供が産まれれば出て行くと約束している者に任せるはずがないのに、既に彼女達にはその事に思い至る事など出来なかったみたいだ。
叶糸としては『妊娠』に関しては体外受精でもするのだろうと思っていた。同性婚の場合は大半がその選択をしているからだ。だが、宮東は彼女らに求められるがままに閨を共にした。元々異性愛者であり、元来性欲の強い獣人で、“学生時代の友人達”というよく知った間柄だったからこそ、『胎を貸すのだから、せめてもの慈悲を!』と泣き付かれては断れなかったらしい。毎夜毎夜代わる代わる、場合によっては複数で。
(“ライオンの獣人”だからハーレム状態に抵抗も無かったのだろうな……)
肌を重ねる度に、彼女達は『私は愛されている!』と過信し始めた。宮東と叶糸は一度も閨を共にしていないのでは?という疑念が、彼女らをいっそう増長させてもいた。
メイドの誰かがこぼした『そんな形跡を見たことはないのよねぇ』という一言が、自分達と毎夜閨事を重ねているという事実によって裏づけられてしまったからだろう。
生活拠点を移してもらっている詫びとして与えられる生活費も莫大だし、住んでいる家は侯爵家のタウンハウスで、ずっと恋焦がれていた男から夜にはたっぷり愛してもらえる。そんな日々では——
朝は宮東の世話を焼き、昼は自由に街へ出掛け、夜になれば愛する男に抱かれる。しかも生活に困る事は何一つない。契約で定められた期間だけとはいえ、彼女達にとっては夢のような日々だった。だからこそ、その暮らしを失う未来など考えたくもなかったのだろう。
贅沢な暮らしを知らぬ平民出身の彼女らが慢心していくのも早かった。
徐々に本物の貴族夫人であるかの様に振る舞い始め、貯金もせずに散財し、自分磨きと称してエステだネイルだと高級店に通い、貴金属も買い漁る。時には貴族夫人達を勝手に屋敷へ招待して、お茶会を開いた事もあった。だが貴族特有のマナーや所作などは一朝一夕で身につくはずもなく、案の定、結果は目も当てられぬ有様だった。手伝いを頼まれたメイド達が慌てて叶糸を呼んでフォローしてもらったおかげで一応体裁は保てたが、『……妾ですらも無い者からの招待だと事前に知っていたら、そもそも来なかったわ。今度は叶糸さんのご招待でお願いしますね』と、やんわりと釘を刺されてしまい、失態を犯した五人の敵意は叶糸へと向いた。
……助けられたにもかかわらず、大衆の面前で恥をかかされたと思ってしまったみたいだ。
何をしようが彼女達は所詮『代理母出産』的な行為を引き受けた者達でしかない。どんなに体を重ねようが本妻にはなれず、愛人ですらも無いのだという事実が彼女達を次第に追い詰め始めた。見目を磨こうが、貴金属を買い漁ろうが心の隙間は埋まらず、段々と妊娠する事自体が怖くなっていった。
五人の誰かが子供を産めば、この生活が終わるからだった。
幸福の終わりを意味する妊娠は、いつしか彼女達にとって最も恐れるべきものへと変わってしまっていた。
乃希
18,011
設楽理沙
97
🔹羅碧🔹
199
ruruha
821
コメント
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みぅです🥀🤍 第41話、読み終わりました……。 五人の女性たちが、徐々に“与えられた立場”を忘れて、自分たちこそが特別だと思い込み始める心理描写が、じわじわと怖かったです。助けてもらった恩を忘れて、叶糸さんに敵意を向けるようになる流れ……人間の弱さがリアルで、胸が痛みました。 特に「妊娠することが怖い」というラストの一文、すごく重かった。幸福の終わりを恐怖に変えてしまう皮肉さが、この作品のダークな魅力だと思います。 続きがすごく気になります……!🌙