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乃希
18,011
設楽理沙
97
🔹羅碧🔹
199
ruruha
821
宮東の血統の子であれば何人産まれようが引き取っては貰える。そう、『引き取られてしまう』のだ。役目は終わりと侯爵家から報酬金と共に追い出され、母親とも名乗れず、生まれた子供は“愛おしいリフ”と“本妻面した叶糸”の子として育てられる。
『抱かれてもいない、愛されてもいないくせに!』
『邪魔なのよ!昔からずっと気に入らなかった!』
『アレがいなければ、今頃彼の隣に居たのは私達だけだったのに!』
——と不満と恨みが急速に募っていく。積み重なった叶糸への身勝手な悪感情は、せっかく宿った子供を勝手に堕ろすという愚行へと彼女達を走らせ、妊娠の気配があった他者に流産する様な薬を飲ませたり、こっそりと妊娠出来ない体になるような行動にまで及んだ。
どうやら五人全員が、今の生活を守る為にも宮東との子供を産まないと一方的に決めたみたいだ。
だが、この歪んだ同居生活が二年も続けば流石に宮東家の一同が怪しみ始めた。二年も掛けて、代理母候補が五人も居るのに、誰も妊娠しないとなれば当然だろう。“宮東リフ”側には問題が無い事は準備期間の間に検査済みだし、五人の健康状態なども契約書を交わす前にちゃんと調べているが、不妊症の者は一人もいなかった。ほぼ休みなく誰かしらと閨事に勤しんでいるのに、これはおかしい。これまでの二年の間で不妊症になったというのなら、それはそれで、他の卵子提供者や代理母などを手配しなければならない。それらの件に関して宮東と叶糸が、問題の五人も交えて『夜にでも話し合おう』と決まったその日の昼間——
突如叶糸は四度目の人生をも閉じる事になる。
包丁を持った五人の女達に、邸宅の一室で、滅多刺しにされてしまったのだ。
彼の遺体は原型を留めてはいなかったらしい。刃で切り付けられていない部分が無い程に全身を刺され続け、血飛沫が飛ぼうが、温かな内臓が体からはみ出ようが、骨が見えても彼女達は包丁で叶糸の体を刺し続けた。
『この一突きが私達を無実に近づける』と信じて。
調理室から持って来た包丁だから計画性は無いと主張出来る。自分達は『早く妊娠しろ!』と叶糸から折檻され、毎日追い詰められていた、ここまでしてしまうくらいに私達の精神はもうボロボロで、責任能力など無いのだと主張する最後の一押しとして、全身が血で真っ赤に染まろうが、肉片と内臓で汚れ果てても、獣耳や指の一本一本まで丁寧に刺し続けた。
そんな事を、彼は一度もしなかったというのに……。
「…………(はぁ)」
ホログラム的な画面に表示されていた報告書をそっと閉じると、叶糸が「終わったのか?」と言いながらマーモットな私をギュッと抱き締めて持ち上げた。ふくよかな頬に頬擦りをし、いつもの様に私の匂いをたっぷり吸う。
そんな彼に「あぁ」と短く返した。叶糸は私の後継者ではあるが、この画面までは見えていない。私の魔力で構築されている物なので、他者が目視出来るような代物ではないからだ。
「まだ寝ないのか?」
私をギュギュッと強めに抱きながら訊いてくる。叶糸の体温が心地良いが、その体温を身近で感じていると、報告書に書かれていた言葉が脳裏に蘇ってきた。
『——治療が必要とは言われるよね。私、自宅療養がいいなぁ』
『そうね。リフって寂しがりやだし、閨事が出来ないとなったら悲しむだろうからそうしましょうか』
『コイツが消えれば、私達が本妻かぁ♡ライオンの獣人だからって理由で、きっと重婚もOKだよね!』
『ここまでするくらいなんだもん、全員が彼を愛しているんだってわかってもらえるだろうし、大丈夫よ』
『そうね、すっごく楽しみ♫』
……そう口する、刃物を叶糸の体に刺し続ける彼女達の瞳は叶糸を映していなかった。彼女達の闇深い瞳は『次は、アンタ達をこうしてやる』と如実に語っていたらしい。叶糸が無自覚に時間を戻さなければ、この数十分後には、此処に居る全員の遺体がこの部屋に転がっていただろう。
普段は仲睦まじそうにしていても、所詮それは『叶糸』という共通の敵がいたからに過ぎない。
『私こそが一番愛されているのに。可哀想な子達ね』と、五人それぞれがそんなふうに他の女達を見下していたのだから、この関係が上手くいくはずがなかったんだ。
彼女らが宮東家と交わした契約書には『今後、何があろうと五人のいずれかとも再婚はしないものとする』と明記されていたのだから、そんな夢みたいな話は絶対に有り得ないとわかっていたはずなのに、宮東家の内側にさえ入り込めば何とかなるとでも思っていたのだろうか。
(平民だなんだと見下さないのは宮東家の中ではリフだけだったから、叶糸でさえも最初は難色を示されたっていうのに)
そもそも宮東は、叶糸と結婚する以上は最後まで責任を持つと決意を固めていた。それがヒトとしての誠意だと、恋愛的な愛情はなくとも叶糸の人柄には惚れていたし、強い友愛と信頼をも寄せていたからだ。
(なら絶対に、彼女達を抱いちゃいけなかったのに……)
出来るだけ妊娠させるのに必要な行為だけにし、一度たりともキスはせず、愛撫もそこそこだったそうだが、『リフに愛されている』と思い込んでいる五人がその行為に距離感や違和感を抱くはずがなかったのに。
叶糸の服をギュッと掴むと、叶糸が優しい声で「どうした?」と訊いてきた。
「眠たくて」とテキトウに返しはしたけれど、叶糸の顔を見る事が出来ない。彼の抱える“消えた過去”が、まるで鎖のように私を縛りつけていく気がする。
叶糸の願いはすべて聞かなくちゃいけない。
叶えなくちゃいけない。
いつの間にかそんな思い込みがじわじわと私の思考を支配していたけれど、その事に気付くことすら、今の私には出来なかった。
コメント
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第42話読み終えたわ…めっちゃ重かった。でもその重さがこの作品の根幹なんだろうなって思う。特に五人の女たちが「愛されてる」と信じて疑わず、『すっごく楽しみ♫』なんて言いながら叶糸を刺し続ける描写、狂気と無邪気が混ざっててゾッとした。叶糸が何もしてないのにあそこまで憎まれる理不尽さ、そして現在のマーモットの「叶えなくちゃ」という思い込みが切なくて胸に刺さるわ。月咲さん、ありがとうございます。続きが気になる…