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私が一番嫌だったのは
父がいつも飢えたような目で
美鈴の姿を追いかけている事だった
その目を見ると私は近所の飼い犬の
ドーベルマンが通りを歩いているノラ猫に
狩りをしたくて必死で吠えかけているのを
思い出した
その犬は今の父と全く同じ
黒く光る目をしていた
父は私達の前でも手を出して美鈴の体に
触らずにはいられなかった
美鈴の頭に・・・首に・・
二の腕に・・・肩に・・
いつも愛情をもって触る
時には彼女の腰を両手で掴んだり
私が見ていないと思っているのか
お尻まで触っていた
そんな時美鈴は「ここではダメよ」とばかりに
白いクールな美しさで微笑んだ
それが常に父を惹き付けた
そして美鈴の方が父よりも下で
一見父には従順に見えて
父を手玉に取っているのは一目瞭然だった
時々家族でリビングにいても
父と美鈴は離れて座っているのにも関わらず
美鈴の目が静かな笑みをたたえて
父を熱く見る時がある
すると父はどこかソワソワしだし
私が恥ずかしくて顔をそむけたくなるような
表情を浮かべるのだ
今の父の姿は私の目には私が神と崇拝していた
あの頃の威厳も何もなく
ただ若い女に盲目に惑わされている
虚しい中年の男に映った
父を私が見たくなかった
腑抜けにしてしまった
美鈴を私は憎んだ
私はなるべく美鈴と口を効かず
自意識過剰にならないように
クールを装っていたが
美鈴はそういった私の心の中の
憎悪を引き出していた
そして雄二の熱情と同じように
自分に向けられる私の憎悪を
楽しんでいたに違いない
私達は父のいない日中は
なるべく家の中で顔を合わせないように努めた
私はトイレに行くのも彼女がダイニングや
リビングにいないか気配を探った
顔を見たくないからだ
学校がない平日などは朝朝食と洗顔以外で
顔を合わす以外は
昼食も部屋で取った