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今日はスキアからの提案と甘い誘惑に流されて、急遽お休みとなった。討伐ギルドから頂く仕事はほぼ全て単発のものなので、毎日行かねばならないものではないから自己判断で休んでも支障は無いのだが、この世界へ移住して来て、三ヶ月間の教育期間を経て以降初の休暇だ。そのせいかちょっとソワソワとしてしまう。自分はすっかり仕事中毒状態だったのだと、約二百七十日ぶりに休んでみて初めて気が付いた。
この部屋の家賃は大家であるマリアンヌさんと町のご厚意により他の同等物件よりは安く済んではいるらしいものの、二人分の食費だ、リアンの保育代だと払っていくとワタシの収入では殆どお金が残らなかった。でもそれが当たり前だと思っていたので不平不満も無く九ヶ月もの間やってきたのだが、実は結構な額を中抜きされていた事が昨日の騒動でわかった。主にワタシを雇い入れてくれていたのはロイヤルさん達のパーティーだったので、別パーティーの方々にされていた分は、彼らがやっていた事を真似ていたといった感じだろう。毎日の貧相な食事内容の振り返ると、ちょっとは『あらま』と思ったが、終わった事だしもういいか。
(ギルドの方で『不正分を回収してみる』って言ってくれてはいたけど、ロイヤルさん達が見付からない事にはどうにもならないだろうしね)
「こっちの掃除は終わったぞ」
リアンと遊んでくれつつ、弟の部屋の掃除をしていたスキアの作業が終わったみたいだ。ワタシが掃除をしていたキッチンとは違って、あの部屋は他と比べても物が多いから大変だっただろうに彼は仕事が早い。
「ありがとう」と礼を言ってそっと弟の部屋を覗くと、リアンは疲れたのか、ペットベッドの上で丸くなって寝ていた。すよすよと小さな寝息が聞こえてちょっと可愛い。
「玩具箱を持ちながら僕が走り回って、そこら中に落ちていた玩具のぬいぐるみをリアンが咥えて投げ入れる遊びをしながら片付けをしていたから、流石に疲れたみたいだな」
「…… 子供の扱い、慣れてるね」
「世の親達の行動を見様見真似でやっただけで、僕に隠し子はいないから安心していいぞ」
音を立てないように気を付けながら近づき、小さな布団をそっとリアンの体に掛けてやる。リアンの手形が沢山あった窓なんかも綺麗になっているから、スキアは随分と隅々まで掃除してくれたみたいだ。
「このまま寝かせておくよな?」
「もちろん。寝る子は育つって言うからね」
二人でリアンの部屋を出てて、そっと扉を閉めた。
「——さて、僕達も昼寝しないか?」
「昼寝?」と口にしながら顔を上げると、リビングの壁掛け時計は九時半を指していた。いやいやいや、いくら何でも『昼寝』をするには早過ぎる。
即座に断ろうとしたのだが、スキアに「ダラダラすごすのは休日の醍醐味だろ」と言われながら横向きに軽々と抱き上げられた。体格差があるとはいえ、よくまぁこんな簡単に抱え上げられるものだと感心してしまう。
「…… お姫様抱っこでもダメか」
舌打ちでもしそうな雰囲気でスキアがボソッと呟いた。
「ん?」
「いや、何でもない。——んじゃ一休みしますか」
ワタシを横抱きにしたままスキアが私室に向かう。いつの間にか綺麗にベッドメイクが済んでおり、その上にぽすんっと軽く投げられた。
一人用のベッドにゴロンと二人で寝っ転がる。部屋にある大きめの窓からは明るい日差しが入ってきて、いい感じに室内もベッドシーツも温まっていた。温かなお布団の上で横になっていると、何だか物凄い贅沢をしている様な気分になってくる。
だけど、ワタシがいくら小さかろうと所詮これは一人用のベッドだ。
結構大柄なスキアと一緒に横になるにはかなり狭いからか、お互いが落ちない様にとスキアはワタシを腕の中にすっぽり収めるみたいに背後から抱きついてきている。逞しい腕で包み込んでくれる彼の体温がかなり心地良い。日差しの温かさと体温のせいで少しつづ瞼が重くなってくる。今はまだ午前中で、しかも起きてから数時間しか経っていないというのに、ベッドが持つ独特の魔力は何とも恐ろしい…… 。
「気持ちいいよなぁ。昼間っからこうやって、ゴロゴロとベッドで寝転がるのは」
「んだねぇ」
瞼はもうすっかり閉じてしまった。なんと怠惰な時間の使い方だろうか。いつもなら日銭を稼ごうと必死に駆け回っているタイミングなのに、仮初の夫と共にベッドでダラダラゴロゴロ。一日の大半を寝て過ごす猫や、二十時間近くも寝るらしいコアラってこんな贅沢を味わっていたのね。
うつらうつらとしているせいで意識が何度も飛びそうになる。そんなタイミングでスキアがワタシの頭に頬を寄せてきて、「リアンが眠っている今の内に、契約者との日課を済ませてしまいたいんだけど、いいか?」と訊かれた。
「…… 日課?」
ほとんど意識が眠りに落ちかけていたせいか、返した声が小さくなってしまった。
「アンタの体に馴染むまでの間、契約印に直接触れて、僕の魔力を流してやらないといけないんだ」
「直接…… 」
一体どこに契約印が刻まれたのか知らないが、必要な行為ならただ従うのみだ。
「うん、わかった」
瞼を閉じたままそう言うと、「危機管理能力ってもんが無いんだなぁ」とスキアが呆れ声で言った。
「まぁ、今となってはそんなモノがアンタにあったとしても、もうどうしょうもないんだけどな」
そう言って、彼の手がするっとワタシの穿いている紺色のショートパンツの中に入ってきた。目立たないようにと太腿の内側にでも刻んだのだろうか?と一瞬思ったのだが、大きな彼の手は太腿を通り過ぎて、真っ白なショーツに触れてくる。
「んんん⁉︎」
流石に驚き、咄嗟にスキアの腕を掴む。だが彼の筋肉質な腕はビクともせず、容赦なくヒトの秘部にそそっと指を当ててきた。
「ソ、ソコはっ——」
「ん?」
「た、た、他人が、触っていいとこじゃないよ⁉︎」
「知ってる」と言い、スキアがニヤッと笑った。
「だから、僕達は夫婦になったんだろう?」
なる程!と思ってしまったワタシの顔を見て、スキアが再び呆れ顔になる。
「…… よく今まで無事に生きてこられたな、アンタ」
股間に添えられた手はそのままに、逆の手で頭をよしよしと撫でられた。撫でられて嬉しい様な…… 違う様な。何とも言えぬ気持ちになったのだった。