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LUMINAのCMが全国のお茶の間に流れ、C小町の勢いが勢し上がっていた初夏。
所属事務所の応接室に呼び出された私を待っていたのは、いつになく真剣な表情の黒岩Pと、双子の兄・康弘だった。
「美裕、単刀直入に言うわ」
黒岩Pは机の上に、重厚な装丁の台本をドサリと置いた。
表紙に躍るタイトルは——超人気ダークファンタジー漫画の2.5次元舞台化作品『漆黒のヴァルキリー』。
「2.5次元舞台の大作から、C小町の美裕指名で出演オファーが来たのよ。役柄は、物語の鍵を握る美しき性別不詳の魔導師・シオン役」
「2.5次元舞台の……役者として、ですか!?」
思わず声が高返る。前世のオタク時代、アニメや漫画が現実の舞台の上に昇華される2.5次元の世界は何度も観劇し、その圧倒的な熱量に震えたものだ。
「ええ。世間はまだあんたを『トランスジェンダーの異端アイドル』として見てる。でも、演劇界の演出家はあんたの『現実と虚構の境目を曖昧にする圧倒的な存在感』を買ったの。これを成功させれば、アイドルとしてだけじゃなく、役者・榊美裕としての一流の証明になる」
「やります……! ぜひ挑戦させてください!」
私が即答すると、黒岩Pは不敵に目を細めた。
「ただし……共演者の面子がエグいわよ。覚悟しなさい」
**【顔合わせ当日:都内稽古場】**
指定された稽古場に入ると、そこには独特の殺気立った空気が満ちていた。
2.5次元舞台の第一線で活躍するトップキャストたちが勢揃いしている。
「……あ、来た来た。噂の『C小町』のシンデレラガールじゃん」
声をかけてきたのは、今作の主演(主人公の騎士役)を務める人気2.5次元俳優・**鳴海 葵(なるみ あおい)**だ。端正な顔立ちに、余裕たっぷりの笑みを浮かべている。
「初めまして、榊美裕です。よろしくお願いします」
頭を下げると、葵は私の顔をじっと覗き込み、ニヤリと口角を上げた。
「噂通り綺麗な顔してるね。でもさ、2.5次元の舞台って『ただの綺麗なアイドル』が片手間でできるほど甘くないよ? アニメのキャラクターっていう『絶対的な正解』がある世界だからさ。原作ファンを納得させられなきゃ、一瞬でネットで叩き潰される」
言葉は柔らかいが、あからさまな牽制。実力派俳優としてのプライドが透けて見える。
「分かっています。原作のシオンが持つ『美しさと狂気』、命がけで表現してみせます」
「へぇ、威勢だけはいいね」
その時、稽古場の隅から冷ややかな声が落ちてきた。
「……葵、新人を脅すのはやめろ。見苦しい」
そこに立っていたのは、ライバル国の皇子役を演じるトップモデル兼実力派俳優の**鳳 蓮(おおとり れん)**だ。冷酷な眼差しで私を一瞥すると、吐き捨てるように言った。
「話題性だけでキャスティングされたアイドルが、どれだけ食らいついてこられるか……せいぜい稽古場で脚を引っ張らないでくれればいい」
周囲の若手キャストたちも、どこか「アイドルが2.5次元の本格舞台に混ざってきた」という好奇と懐疑の目を向けている。
(……なるほどね。試されてるんだ)
前世の私が愛した2.5次元の世界。
キャラクターへの愛と、それを生身の人間が再現するための血の滲むような努力。そこには半端な「アイドルとしての知名度」なんて通用しない、完全なる実力主義の世界が広がっていた。
「——面白いじゃない」
私は心の奥で静かに炎を燃やした。
元男であること。トランスジェンダーであること。前世で『推しの子』の世界を愛したオタクであること。
次元の壁を越えて「シオン」というキャラクターに命を吹き込むためなら、私の持つすべての葛藤と経験が最強の武器になる。
「みなさん、ご指導よろしくお願いします。……私が演じるシオンに、全員の視線を奪ってみせますから」
一歩も引かない私の返答に、主演の葵は目を見開き、冷徹な鳳蓮はフッと小さく口元を歪めた。
2.5次元の舞台という新たな戦場。
本物の役者たちに囲まれたアウェイの空間で、私の役者としての限界を超える戦いが始まろうとしていた。
美裕が2.5次元舞台『漆黒のヴァルキリー』の殺気立った稽古場で孤軍奮闘していた、まさにその頃。
C小町の活動は一時的にソロワークが中心となり、残された宵闇灯と向井沙也加の二人は、都内のダンススタジオで汗を流していた。
「——ちょっと沙也加、リズム遅れてる。サビのタメ、もっと深く入って」
鏡の前で足を止めた灯が、ポニーテールを揺らしながら冷ややかに指摘する。
「うっ……ご、メン灯ちゃん! もう一回お願いします!」
息を荒くしながら、沙也加は自分の頬を両手で**パンッ!**と叩いた。
普段なら「アイドルオタクとしての血が騒ぐ〜!」などと冗談を飛ばしている沙也加だが、今日の瞳には余裕がない。
音が止まったスタジオに、二人の荒い息遣いだけが響く。
「……焦ってるでしょ、沙也加」
タオルで汗を拭いながら、灯が不意に言った。
「えっ? いや、そんなこと……」
「隠さなくていいよ。私もだから」
灯はアンニュイな瞳を少し陰らせ、スタジオの壁に背中を預けた。
「美裕、すごすぎるもんね。CMの反響もヤバかったけど、今度はあの『漆黒のヴァルキリー』のシオン役でしょ? 相手は鳴海葵に鳳蓮……2.5次元のトップ役者たちよ。完全にC小町の枠を飛び出して、役者・榊美裕として覚醒しようとしてる」
沙也加は握りしめたタオルをギュッと噛み締めた。
「……うん。正直、めちゃくちゃ誇らしい反面……すっごく悔しいです」
沙也加の口から漏れたのは、普段の天真爛漫な「オタクの美少女」からは想像もつかない、剥き出しの執念だった。
「私、美裕ちゃんのファン第一号のつもりでした。美裕ちゃんの持つ儚さも、男時代からの葛藤も、全部抱えて踊る姿が世界で一番尊いと思ってた。……でも、美裕ちゃんはどんどん先に行っちゃう。このままだと、私と灯ちゃんは『美裕ちゃんの引き立て役』になっちゃう……!」
絶世の美貌を持ちながら、今までどこか「推しを愛でる側の視線」を捨てきれていなかった沙也加。その彼女が、初めて見せた**「一人のアイドルとしての嫉妬と焦り」**。
灯はフッと口元を緩め、髪をかき上げた。
「……言ってくれるじゃん。読者モデルのトップとして生きてきたこの私が、美裕の引き立て役で終わるわけないでしょ」
灯の瞳に、鋭いカリスマの光が宿る。
「美裕が外の戦場で化け物じみた役者たちと戦って戻ってきた時、C小町に戻る場所がぬるま湯だったら……あいつ、絶対ガッカリする。私たちが美裕の追随を許さないくらいレベルアップして、『お帰り、遅かったじゃん』って迎えてあげなきゃ」
「灯ちゃん……!」
「沙也加。次のソロのバラエティも、モデルの仕事も、全部120%で叩き潰すよ。美裕が舞台で旋風を起こすなら、私たちはこの街のトレンドをC小町で塗り替える」
「はい……! 私も、もう『オタクの沙也加ちゃん』じゃいられません。完璧なアイドル・向井沙也加として、美裕ちゃんを驚かせて見せます!」
二人は強く視線を交わし、拳を固く握り合った。
その頃、事務所のデスクで二人のスケジュール表を眺めていたマネージャーの康弘とプロデューサーの黒岩P。
「……黒岩さん、沙也加と灯の自主練、もう3時間を超えてますけど」
「放置しておきなさい。美裕の活躍が、あの二人の『本気』に火をつけたのよ」
黒岩Pは未点火の煙草をくわえ直し、ニヤリと笑った。
「センターが外で化けて、残された二人が底上げされる。……最高のグループになってきたじゃない」
美裕が舞台という異境で孤軍奮闘する裏で、C小町という絆は、より強固で苛烈な炎を燃やし始めていた。
コメント
1件
いやー、第10話、熱かったですね! 美裕がいよいよ2.5次元舞台に挑戦する展開、胸が熱くなりました。あの殺気立った稽古場で、鳴海葵や鳳蓮といった実力派俳優たちに囲まれながらも「全員の視線を奪ってみせます」と言い放つシーン、痺れました。元男であることやトランスジェンダーであること、前世のオタク経験を「最強の武器」に変える覚悟がカッコいい。そして第11話で灯と沙也加が焦りと嫉妬を見せつつ、自分たちもレベルアップしようと誓い合う場面もグッときました。C小町が一つのグループとして、それぞれの場所で強くなろうとしているのが伝わります。次回が待ち遠しいです!
71
#【推しの子】
#SAKAMOTODAYS
おとうふ 紹介文読んで🙇
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りな
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