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南新宿駅|22:59

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南新宿駅|22:59

2 - ◉花渦町(はなうずちょう)

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2025年06月05日

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❖第1話:花渦町(はなうずちょう)

◉古雫屋


「え……なんで、これがここに……?」


降り立った瞬間、あまりに静かで耳が詰まったような感覚に陥った。

さっきまで満員だったはずの車内にはもう誰もいない。ホームにも、駅員の姿はなかった。


——花渦町。

看板の文字はくすんだ字で、風に揺れて軋んでいた。



ホームを出るとすぐ、市場の入口に差し掛かる。

古びたアーケードにぶら下がっているのは、しおれたガーベラ、カサカサに乾いたカスミソウ、折れた百合。

店先のバケツにも、花瓶にも、生気のない花ばかりが並んでいた。



その市場の中を、ひとりの少女が歩いていた。

肩までの黒髪を、少しだけ緑がかったヘアピンで留めた、16歳くらいの女子高生。

制服のスカートは折り目が乱れ、白いカーディガンは袖が伸びきっていた。

右手にはスマホ、左手には何も持っていない。

名前は茅島ひより(かやしま・ひより)。



彼女は歩きながら、ある違和感に気づいていた。

枯れた花しか並ばないはずの市場に、ひとつだけ、色鮮やかな花束が混ざっている。

淡い桃色のカーネーションと、青みがかったラナンキュラスの束。



「……あたしが、小4のときに作ったやつだ……」


それは、亡くなった姉の誕生日に贈った、手作りのブーケだった。

自分でリボンを選び、花屋で1本ずつ選び、最後にメッセージカードを結びつけた。


けれど、渡せなかった。

事故で姉が亡くなったのは、その前日だった。



「どうして、これがここにあるの……?」


誰もいない市場に声が吸い込まれていく。

そのとき、奥から鈴のような音が、カラン、と鳴った。



振り返ると、小さな花屋の軒先に、ひとりの男の子が立っていた。

彼は背が低く、小学生くらいに見える。

色褪せた半袖シャツ、花の模様がついた泥だらけのズボン。

手には、なぜか**“水の入っていないジョウロ”**を持っていた。



「お姉ちゃんに、渡したらいいよ」


「え?」


「この市場にある花は、**“置いていった花”**なんだ。

渡せなかった花、忘れられた花、投げ捨てられた花……。

でも、ちゃんと渡すと、ここから消える」


「それ、どういう意味……?」


「やってみたら?」



彼の言葉に促され、ひよりはおそるおそるその花束を手に取った。

枯れかけた他の花と違い、それは柔らかく、ほんのりと香りを放っていた。


その瞬間——


市場の照明が全て、バチッと同時に消えた。



気づくと、ひよりは自分の部屋に立っていた。

窓の外は朝。スマホには6月17日、午前7:04と表示されている。

手には、あの花束はなかった。


けれど机の上には、姉が使っていた小さなメモ帳が置かれていて、

その表紙には、こう書かれていた。


「ありがとう、ちゃんと届いたよ」

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