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第40話 1900スポット ウイング小学校 話者と役割
1900スポット。
ウイング小学校。
校門の上の翼の意匠は、
風がなくても、わずかに揺れて見える。
理由を口にする者はいない。
校舎は低く、
廊下は長い。
窓の外には、
生活圏へつながる通路。
その先の空は、
今日は黄緑だった。
教室。
机は木目のまま、
角は丸く削られている。
椅子の脚は鉄で、
床に細い線を残す。
掲示板には、
発音の記号と文字の表。
水色の線で区切られ、
紫の丸で重点が囲まれていた。
前の席の子は、
髪を短く整え、
袖口の縫い目が細かい。
指がよく動く。
隣の子は、
腰に小さな袋を下げ、
笑う前に肩が先に揺れる。
窓側の子は、
緑の葉を押し花にして、
薄い紙のあいだに挟んでいた。
先生が入ってくる。
制服は灰色寄り。
胸元に小さな翼章。
髪はまとめられ、
目は冴えている。
最初の授業は、
この学校でいちばん大切な話。
「この世界の話し方は、
すべて方言です」
言葉は、
ゆっくり置かれる。
頷く者。
まだ早いと目で言う者。
「方言は、違いです。
上下ではありません」
「仕事は、分け合います。
役割は、奪い合いません」
掲示板の横に、
七つの区分。
名前と読み方。
すべて覚える決まり。
アジィア。
暮らしの中に混ざり、
道具の最終確認を任される。
音の間が独特で、
相手の息をよく見る。
エルフ。
視線が遠い。
感情は表に出にくいが、
思考の組み立てが速い。
石やスポットの理屈を、
言葉として残す。
サバチャー。
数字の扱いが軽い。
計算より先に、
見通しが立つ。
石採掘に関わる大資本層が古くから存在し、
石王と呼ばれる者もいる。
自然に惹かれるが、
循環そのものを語らないこともある。
石テクノロジーの進展に深く関わってきた話者たち。
アフリィ。
畑の違いを、
土の匂いで言い当てる。
洞察が鋭く、
農の場で力を伸ばす。
植物線の発見は、
新聞の紙面を埋めた。
イングッシュ。
発音は二系統。
丁寧に回り道をする言い方と、
結論と行動が早い言い方。
理論と規約。
実装と運用。
同じ区分の中に並んでいる。
メカニカル。
言葉が速い。
構造の話が先に出る。
専門語が混ざり、
聞き返すと説明が増える。
四次元スポットの原型を作った人物の記憶が、
呼び名として残っている。
クラーク。
距離が近い。
初対面でも笑う。
小物や食品を配り、
会話の入口を作る。
手を動かしながら話す。
言葉は関西弁になる。
ネイチャー。
声は穏やか。
比喩に植物や地形が混ざる。
人工物より、
環境や循環を重んじる。
自然の多い場所を選ぶ者が多い。
先生は、
七つを並べ終え、
教室を見回した。
「どれが欠けても、
生活は止まります」
「だから、ここでは」
指が、
掲示板のいちばん上をなぞる。
文字。
発音。
記号。
「六年間で、
全部を習います」
「読む」
「書く」
「聞く」
「言う」
「どの方言でも、
同じように」
前の席の子が、
指先で机を叩く。
細いリズム。
隣の子が、
それに肩を揺らす。
窓側の子は、
押し花を閉じ、
葉の縁を撫でた。
先生が笑う。
口角だけが上がる。
声は変わらない。
「間違えるのは、
当たり前です」
「大事なのは」
「違いを、笑わないこと」
「違いを、使えるようになること」
教室の空気が、
少しだけ軽くなる。
先生は、
終わりの合図として、
手をたたく。
今日から、
文字を習う。
自分のためじゃない。
誰かの方言を、
自分の口で守れるようになるために。