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それから10分後に井上が迎えに来た。

優羽は車に乗り込むと井上の運転する車で新穂高へ向かった。


「あくまでも僕の予想ですが午後少しだけ天気の回復しそうな時間帯があるんですよ。岳大さんはきっとその隙を狙って下山するんじゃないかと。まあ予想なんで外れるかもしれないですが」

「でも体調を崩している人がいるんですよね? その人は動けるのかしら?」

「おそらく高山病だと思うんですよねー、でも発症してからかなり経っているので今は回復に向かっているんじゃないかなと。ヘリの救助要請が来ていないって事はそういう事でしょうから」

「そうなんですか? じゃあ早ければ今日中に?」

「うん、僕はそう思っています。だから迎えに行く事にしたんです」


井上の明るい表情を見ていると期待してもいいのだろうか? 優羽の不安が少し薄れる。


その頃岳大達は空の様子を見ながら天気が一時的に回復する隙を狙っていた。

体調を崩していたスタッフの川田ももうすっかり良くなり歩けるようにまで回復していたのでチャンスがあれば下山する予定でいた。

残されたメンバーはテントたたみ荷物をまとめ始める。

この分ならあと一時間以内には出発出来るだろう。



その頃優羽と井上は新穂高に到着した。

既に日が暮れ始め辺りは薄暗くなってきた。先ほどまで激しく降っていた雪はすっかり弱まり今は小粒の雪がちらつく程度だ。

車を降りると井上がテレビ局スタッフの車だと思われるワンボックスへ近づき窓をコンコンとノックする。

するとドアが開いて真っ黒の雪焼けした坂本の顔が現れる。


「坂本さんお疲れ様です。大変でしたね、でもご無事で良かった」

「井上君心配をかけました。いやまさかあんな天気の急変は誰も予測していなかったですよ。でも佐伯さんの的確な判断で難を逃れました」


ワンボックス内には他に2名のスタッフがいたが他のスタッフはホテルへ戻ったようだ。

そこで井上が坂本に優羽を紹介する。


「こちらは佐伯さんのフィアンセの森村さんです。心配していたので連れて来ました」

「初めまして森村です。無事に下山出来て本当に良かったです」

「ああ、あなたが佐伯さんの! 始めまして坂本です。いやーご心配おかけして大変申し訳ないです。でも彼は無事なので安心して下さい。1時間前にやっと連絡が取れて今はこちらに向かっているようです」


それを聞いた優羽と井上は顔を見合わせてから喜ぶ。


「「よかったー!」」


優羽は目頭がジンと熱くなったが涙をこらえる。

すると向かいにあるホテルの入口から二人を呼ぶ声が響いた。


「井上さーん! 優羽さーん!」


二人が振り返ると大和翔真がこちらへ向かって来る。

優羽と井上は慌てて翔真に近づいた。


「翔真君! 君はまだここにいたの?」

「はい。向かいのホテルに空きがあったのでマネージャーに部屋を取ってもらいました。佐伯さんが戻るまでは僕もここにいますよ」


翔真は井上に向かって言うと今度は優羽に向かって言った。


「優羽さんも心配しないで下さい。なんてったって佐伯さんのパーティーですよ! 今回佐伯さんと一緒に行動してみてわかりました。あの人は本当に凄い人です。だから彼はきっと今日のうちに戻って来ますよ」


その言葉に優羽は勇気づけられる。


それから優羽は待機している人達に持って来たパンとコーヒーを配った。

皆何も食べていなかったようで優羽が配ったパンを嬉しそうに食べている。

少し緊張の解けた雰囲気の中井上の携帯が大きな音を立ててなった。

電話は岳大からだったので井上は皆にも聞こえるようにとスピーカーモードにして電話に出た。


「井上君? ただいま、やっと着いたよ。心配かけて申し訳ない。悪いけれどクタクタなんで迎えをお願いしてもいいかな?」

「佐伯さんお帰りなさい! もう本当に心配しましたよー」

「ハハハあの天気の変動は全く予想外だったよ! でも撮影が終わった後だったから本当に良かった。あ、それと優羽が心配していると思うから無事下山した事を伝えておいてもらえるかな? メッセージしようと思ったんだけれど手がかじかんでいて文字が打てないんだ」

「じゃあ本人に直接言ってあげて下さい」

「えっ?」


その時登山道に何かが光るのが見えた。

光は4つ並んでいる。その光は岳大達が頭につけたヘッドライトの明かりだった。

徐々に四人の姿がはっきりと見えてきた。次の瞬間ライトの明かりに岳大の顔が浮かび上がる。


その瞬間優羽が走り出した。優羽は目に涙を浮かべたまま一心に走って行く。

そして登山道から駐車場へ入って来た岳大めがけて走り続ける。


メンバーと会話を交わしながら歩いて来る岳大の顔は雪焼けで真っ黒になり無精髭が生えている。

しかしその表情は若干疲労の色は見えていたがとても穏やかな笑顔だった。


その時岳大は走って来る人物に気付いた。それが優羽だとわかると驚いた表情になる。


「優羽っ!」


岳大が叫んだ時優羽は岳大の胸に飛び込んでいた。


「もうっ、心配したんだからー、本当に心配したんだからーっ!」


優羽は泣きながら叫ぶ。

そんな優羽を岳大はしっかりと抱き締める。


「心配かけてごめん。もう大丈夫だから」


岳大は優しく声で言うと優羽を更に強く抱き締めた。


優羽は岳大の胸に顔を埋めながらわんわんと泣き続けた。

その声は心の底から安堵しているような、そしてほんの少し甘えるような声にも聞こえた。


二人が抱き合う光景はいつの間にかテレビクルー達によってしっかりと捉えられていた。


坂本は保坂から二人一緒のシーンがあればカメラに収めておいてくれと頼まれていた。

保坂はその映像を『ネイチャーストーリーズ23』で使おうと思っているようだ。


「保坂さんには申し訳ないけれどこの映像は『グレートクライマー2023』の方で使わせてもらうことにするよ」


坂本はそう呟くとにっこりと微笑んだ。


岳大は翔真や坂本、他のスタッフ達との挨拶を終えると井上の車に乗り込み優羽と三人で自宅へ向かった。


優羽は冷え切った岳大に温かいコーヒーとパンを渡す。

余程お腹が空いていたのか岳大は車の中でパンを2つペロッと平らげた。

優羽は食欲のある岳大を見てホッとする。


その後岳大は心配をかけている人達へ電話をかけ始めた。

その合間に優羽も兄の裕樹へメッセージを送り岳大の無事の帰還を知らせる。


「皆に心配をかけてしまったね」


車の中で岳大はすまなそうに言った。


岳大の自宅へ着いた時は午後の9時を過ぎていた。

岳大と優羽は車を降りると井上に礼を言った。

明日明後日は事務所が休みなので詳細は月曜日に話す事にする。


「では佐伯さん、ゆっくり休んで下さいね」

「ありがとう、おやすみ!」

「おやすみなさい」


三人で挨拶を交わすと井上は笑顔で自宅へ戻って行った。

水面に落ちた星屑

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