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翌日、ケイリクスが護衛騎士だといってグウェンダルを連れてきた。
前回も護衛騎士はいたが、見知らぬ近衛騎士だったと思う。二名でローテーションして、ケイリクスと夜伽をしているとき以外は四六時中ついて回られて鬱陶しかった。
皇帝の情婦でしかない貴族令嬢に近衛騎士がつきっきりだったのだ。
今のグウェンダルの地位は帝国騎士団長であり、そんな任務につく立場では決してない。なぜケイリクスがわざわざ彼を連れてきたのかわからず、メリーティアは困惑するばかりだった。
「余がいないときはグウェンダルがそなたを守ってくれる」
「……どうしてホールトン公爵なのですか? 彼は騎士団長ですわ」
「そなたを守るために決まっているだろう。グウェンダルは帝国一の剣の使い手だ。余に忠誠を誓っているから信用も置ける。そなたを守るのにこれ以上相応しい騎士がいるか?」
にこやかに説明されても納得いかず、メリーティアはにらむようにグウェンダルを見た。騎士団長にまで昇り詰めたのにこのような扱いをされて不満はないのか、と視線で問いかける。
しかしながら、グウェンダルの無表情から感情を読み取ることは難しかった。
「我が命に代えてもお守りいたします」と騎士礼をされ、言葉に詰まる。
「グウェンダルでは心許ないか?」
「い、いえ、少し……驚いただけですわ」
試すかのような視線が鼻につく。
ぎこちなく微笑み返すことしかできなかった。
ケイリクスがグウェンダルを護衛騎士に任命した理由は、すぐにはっきりした。
政務を終え離宮へと戻ってきたケイリクスは、さっそくメリーティアを抱いた。グウェンダルが扉の外で護衛していることを知っていながら、である。
どうやらメリーティアのよがる声を彼に聞かせたいようだった。
グウェンダルがメリーティアにまだ気があるのをわかっていてやっている節がある。もう自分のものだと知らしめたかったのだろう。優越感に浸りたかったに違いない。
メリーティアはケイリクスの浅ましい心情をすべて見透かしていながら、グウェンダルに声を聞かれる状況で抱かれるのも、彼が護衛騎士を続けることも「嫌だ」ということはできなかった。
もし拒否をしたら、彼を意識していることをケイリクスに教えることになる。
そうなればこの復讐計画は台無しだ。
きっとケイリクスはグウェンダルを排除するだろう。
だから歯を食いしばり、狂った男から注がれる溺れるほどの愛にただ喘いでみせた。
(最悪の気分だわ)
そのうえ、昨日よりもしつこい。
メリーティアの気分がノっていないことを見透かしたのか、途中からまた媚薬を使われたおかげで、出したくもない嬌声をこれでもかと上げさせられた。
*
四十路も近いケイリクスより、メリーティアのほうが先に限界を迎えた。
力の入らない手足をぐったりと投げ出していると、乱れた髪を優しく撫でられる。
疲労で今にも眠ってしまいそうだった。
「湯と布を持ってくるから、いい子で待っているんだよ」
昨夜はメイドに持ってこさせていたのに、と不思議に思った。
ガウンを羽織ったケイリクスが寝室の扉を開ける。隙間から黒髪と騎士の制服が見えた。「心配だから中で見張っていてくれないか」というケイリクスの声が聞こえてきて、わずかな間を置いて「承知しました」と硬い声が返る。
そして出て行ったケイリクスのかわりにグウェンダルが入ってきた。
扉のすぐ傍の壁に背中をぴたりとつけて佇み、こちらを極力見ないようにしている。
(……悪趣味だわ。声だけじゃ飽き足らず、自分が抱き尽くした姿まで見せつけたかったのね)
これから毎日このようなことが繰り返されるのだろうか。グウェンダルを巻き込むのは本意ではないのに。彼を不幸にしないために遠ざけたにもかかわらず、これでは意味がない。
ひとりで離宮に囚われていたときとはまた異なる地獄だった。
(でも、さすがにグウェンダルも今回ので目が覚めたでしょう)
ほかの男に抱かれた姿を見てしまったら、もうメリーティアを愛することなどできなくなったはずだ。
それなら今後同じことをされたとしてもグウェンダルの心は傷つかず、少し不快に思う程度で済むだろう。
メリーティアはもはや、自分の心がボロボロになっていくのはどうでもよかった。
「……メリーティア、大丈夫なのか?」
ふと名を呼ばれて視線を向けると、グウェンダルがこちらを見ていた。
(ああ……だめよ。そんな目をしないで)
期待していたような軽蔑はなく、深い愛がこもったまなざしだった。
つい泣いてしまいそうになる。
グウェンダルに抱かれた思い出を支えにしようと思っていたのに、もう体温すら思い出せない。ケイリクスに抱かれた瞬間から前回の悪夢がどっと押し寄せてきて、全部黒く塗りつぶされてしまった。
触れたら、思い出せるだろうか。
もう一度だけ抱き締められたら、あと少しがんばれそうだ。
メリーティアは朦朧としながら手を伸ばした。