テラーノベル
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ふわふわしていた意識が次第にはっきりしてくる。
眠気で霞んでいた視界も明瞭になりつつあった。
メリーティアの右手は何かをしっかり掴んでいる。
グウェンダルに向かって手を伸ばしたところまでは覚えていた。どうやら彼の手を掴んだまま眠ってしまっていたみたいだ。
繋いだ先を視線で辿っていくと、思っていたより細くて頼りない腕があった。
「……あれ……?」
声を上げた途端、それまで認識できていなかった相手の顔がくっきり見える。
「グウェンダル……」
初めて会ったときの姿の彼がそこにいた。
昔はあんなに大きく見えたのに、いま見ると子供らしい丸みもたしかにあってかわいらしく感じる。
(でもどうして小さい頃のグウェンダルがいるの?)
「お母さま」
(おかあさま……?)
「えっ……もしかして、わたしのこと?」
そのとき唐突に理解した。
この子はグウェンダルではなく、彼と自分との間にできた子だと。
「あれ、わたし……あれ?」
今まで長い長い悪夢を見ていたようだ。
現実と区別がつかないくらいにリアルだったせいで、どのような内容だったか思い出そうとするだけで涙が溢れてしまいそうになる。
家族もグウェンダルも殺されるなんて、そんな恐ろしいことが現実で起こるはずない。
怖がりなせいで、昔から悪夢に悩まされてばかりだ。
自分はずっと、グウェンダルと息子と三人で幸せに暮らしているというのに。
本当におかしな夢だ。
またニルス様に「悪夢を見ないようにしてください」とお願いしたほうがいいかもしれない。
「お母さま、早く起きて!」
急かされてベッドの上で身体を起こす。
改めて目の前にいる子を見ていると目頭が熱くなってきて、今度は堪えきれず滂沱の涙が流れた。
突然泣き出したメリーティアに驚いた様子で慌てる姿もかわいくて、つい泣きながら笑ってしまう。
あんなに小さかったのに、すごく成長している。力強く引っ張ってくる手は少し湿っていて、ちゃんと温かい。
「ねえ、抱っこしてもいい……?」
「僕もう七歳だよ」
「あら、いつの間にそんなに大きくなったのかしら」
「……べつに、お母さまが抱っこしたいならいいけど」
もあ
44
鬼霧宗作
50
#復讐
りう。
45
さぶれ-SABURE-
1,239
恥ずかしそうに目を伏せながら両手を上げた子を、強く抱き締める。「くるしいよ」と言われても離してやれない。それから抱っこしようとしてみたけれど、思っていた何倍も重たくて、上手く持ち上げられなかった。
「おっきくなったね」
「そりゃあそうだよ。毎日お父さまと鍛えてるもん!」
「まぁすごい。それじゃあ将来は騎士団長になるのかしら。本当に……立派に成長して……」
「ふふ、お母さまどうしたの、毎日僕のこと見てるのに。そんなに急に大きくならないよ」
「そうね、そうよね」
この子が初めて話した言葉も、初めて立って、歩いた瞬間も、きっとグウェンダルとふたりですごく感動したはずなのに何も覚えていなかった。
抱き締めていた腕を緩め、まろい頬を両手で包む。
黒い髪、精悍な顔立ち、がっしりとした身体。
本当にグウェンダルにそっくりだなぁ、と愛おしさに目を細める。よく見ると瞳はメリーティア譲りの色をしていることに、今このとき初めて気がついた。
(初めて――なんて変ね。ずっといっしょにいるのに)
「ねぇお母さま、起きたなら早く行こう」
「うん? どこに行くの?」
「忘れちゃったの? 庭のオレンジ、そろそろ食べごろかなって昨日話してたでしょう? 見に行ってみようよ」
「オレンジが? まぁ本当に? そうね、見に行きましょう」
苗木を植えたのはメリーティアだ。
記憶の中ではまだ若い木なのに、もう実をつけるほど育ったのが信じられなかった。
タウンハウスの庭園にオレンジの木を植えた理由は、つわり中それしか食べられない時期があったためだ。お腹の子が生まれたら、きっと大層なオレンジ好きになるのだろうと想像していた。
だから庭に好物がたくさん生っていたら大喜びしてくれるのではないか、と考えたのだ。
――そう、こんなふうに。
手を引っ張って先導する息子の、わくわくと弾んだ足取りを見て笑う。
厚手のストールを羽織っただけの状態で庭園に連れ出された。外は寒くて、吐く息が白くなる。今はもう少し暖かい季節だったような気がしたが、すぐにそんなことどうでもよくなった。
記憶にある庭園よりもずっと色鮮やかだ。冬に花を咲かせる植物が彩るなか、大きく育ったオレンジの木はまるでシンボルツリーのようだ。
実がたくさん生っているものの、しかしほとんどがまだ緑色だった。
「ほら、あそこ! あのあたりだけオレンジ色になってる」
小さな手が指差した先を見てみる。太陽の光が眩しくて目を細めてみると、よく陽が当たる場所に生ったオレンジだけが食べごろに色づいていた。
「食べたいの?」
「うん! 僕オレンジ大好きだもん。知ってるでしょ?」
「ええ、知っているわ。お母さまも好きなのよ」
「知ってるよ~ふふっ」
何げない会話が楽しくてたまらない。いつまでもこんなふうに話していたかった。
それから、もっと笑顔が見たいという欲求がわき上がる。
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