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冷え切っている嫋やかな身体を温め、ボロボロになった恵菜の心を癒しながら守るように、純の腕に、さらに力が込められる。
彼女の頭を胸元に引き寄せながら、緩く波打つ艶髪を、彼はそっと撫で続けた。
「恵菜さん。もうこれ以上、何も言わなくていい。ずっと…………辛くて……苦しかったな……」
純の腕の中で、泣き崩れそうになるのを耐えている恵菜に、愛おしさが募る。
彼女は、元家族や元夫の不倫相手から、散々な目に遭わされた。
恵菜の中に残る辛さや苦しみを解き放てるのは、俺しかいない、と、純は彼女を掻き抱きながら思う。
「恵菜さん…………泣きたい時には、思い切り泣いていい。泣くのを我慢したら…………きっとまた苦しくなる。俺が…………君の傷付いた心を……全部…………受け止めるから……」
「っ……ううぅっ…………うっ……っ…………ううっ……っ……ぅうあぁぁあぁっ……!!」
純の言葉に、恵菜は箍が外れたのか、彼の胸に顔を埋めながら、身体を大きく震わせて啼泣した。
「恵菜さん…………もう大丈夫。大丈夫だから……」
彼は慈しむように彼女を抱擁し続け、恵菜に気付かれないように、艶めいた髪に唇を落とす。
仄かに残るフローラル系の甘やかな香りが、純の鼻腔を優しく掠め、恵菜の身体を、なおも抱き寄せる。
外は、いつしか細雪から牡丹雪へと変わり、白く染まりつつある景色の中、彼女の慟哭だけが静かに響き続けていた。
ひとしきり純に抱きしめられた恵菜は、ようやく落ち着きを取り戻し、筋張った腕の中で小さく鼻を啜っている。
「…………少しは……落ち着いたか?」
瞳を充血させ、泣き濡れている彼女の目尻には、まだ雫が溜まっていた。
「…………」
恵菜が言葉を発せず、辿々しく頷く。
彼は、肩を抱いたまま彼女の顔を覗き込み、恐る恐る白磁の頬に触れると、親指で涙を優しく掬い取り、頭をゆっくりと撫でた。
スマートウォッチで時間を確認すると、既に二十二時を回っている。
(このまま…………彼女を一人にできない。この悪天候の中、一人で西国分寺の家に帰らせるのも……心配だな……)
恵菜と会う前、既に飲酒している純は、当然だが車の運転はできない。
「恵菜さん…………家に帰ってないんだよな?」
「…………は……い……」
彼女の心の傷につけ込むようで気後れするが、純は彼女と一緒にいたい気持ちが勝り、断られるのを覚悟で口を開いた。