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「恵菜さん。こんな天気だし、今から西国分寺まで帰るのも大変だろ?」
言いたい事を憚っている純は、肝心なセリフを言うのに、遠回しな言い草になってしまう。
「俺……恵菜さんに会う直前まで……酒を飲んだから、車も運転できないし…………」
(…………俺、ホントにヘタレ……)
額に掛かる前髪を、ざっくり掻き上げ、彼は大きく息を吐き出した。
「…………雪も降ってて寒いし…………今から俺の家に…………行こうか」
純の腕の中で、華奢な身体がビクンと震える。
彼に突然、家に行こうと誘われ、恵菜は警戒しているのかもしれない。
だが純は、恵菜を連れ込んでセックスする気は全くないし、ただ、彼女を抱きしめたい、癒したいという思いで言ったまでだ。
こんな気持ちになるのは、彼にとって恵菜が初めてだろう。
彼女が戸惑う面差しで、ぎこちなく顔を上げ、彼と視線を絡めてくる。
「でっ…………でも……」
「正直、このまま君を一人で西国分寺まで帰らせるのは…………俺は……すごく心配なんだ。恵菜さんが考えている事は一切しない。それだけは約束する」
「…………」
恵菜は、かなり迷っているようだったが、やがて彼女は、恐々と肯首した。
「…………すみません…………お邪魔させて……もらっても…………いいです……か……?」
「ああ、もちろん」
二人は立ち上がり、純が傘を差すと、恵菜の肩を抱き寄せて中に入れる。
(もう…………彼女への想い…………止められない……)
二人は、積もってきた雪を踏み締めるように、小さな歩幅で、純の自宅マンションへ向かった。
彼の自宅マンションは、五階建ての賃貸マンションで、一階がコンビニエンスストアになっている。
「うち、酒くらいしかないから、何か買っていこうか」
二人は店内に入ると、恵菜はトラベル用のシャンプーとコンディショナーのセット、歯磨きセット、女性用の下着も売っていたので購入。
純は、ソフトドリンクやお茶、おにぎり数個と菓子パンなどを買い求めた。
コンビニエンスストアを出て、マンションのエントランスの中へ入り、エレベーターに乗り込むと、純は最上階のボタンを押す。
鉄の箱が上昇していく中、二人は無言のままでいると、彼の部屋がある五階に到着した。