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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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百メートルほど歩くと、左手のビルに素敵なブティックが見えた。

婦人服専門のセレクトショップのようだ。

ガラス張りのショーウィンドウには、一目見て上質とわかる素敵な服が美しくディスプレイされていた。


銀座の裏通りとはいえ、有名店もちらほら点在する地域だ。

その店で扱っている服は、かなり高額なものだろう。

理紗子は不安に思いながら、健吾に引っ張られるままにその店に入った。


店内には大人の女性向きの素敵な服が沢山並んでいる。

思わずうっとりしてしまうような品の良いエレガントなデザインばかりだ。

理紗子は思わず見とれてしまう。


店内にいる客達の印象は、富裕層のエレガントな女性ばかりだった。

この店の顧客はそういった階層の人間が多いらしい。


二人が店に入ると、奥から一人の女性が近づいて来た。


「あーらいらっしゃい! 健ちゃん久しぶりね」


60歳前後の素敵なマダムが健吾に声をかけた。


「美和さん、ご無沙汰!」

「今日は素敵なお嬢さんをお連れなのね」

「うん。実は彼女の服にコーヒーがこぼれてしまったんだ。だから何か適当に見繕ってやってくれないか」

「あらあら、大変!」


マダムは理紗子の茶色く染まったパンツを見ると驚いて声を上げた。

そして理紗子の傍に来て名刺を渡す。


「私、この店のオーナーの樋口美和と申します」

「突然すみません。水野と申します」


理紗子も自己紹介をしてお辞儀をした。


「コーヒーは健ちゃんのお店でかかっちゃったのかしら? あらあらすっかりシミになっちゃったわねぇ。これコーヒーでしょ

う? クリーニングに出して真っ白に戻るかしら? えっと、代わりに同じようなパンツがいいのかしら? それとも全然違う

服でも構わないの?」


美和は理紗子にではなく健吾に聞いた。


「折角だから上下全部揃えてくれ。美和さんに任せるよ」

「あら嬉しい、ありがとうございまーす! じゃあ張り切っちゃおう」


美和は嬉しそうに言うと、奥に控えていた若いスタッフを呼びつけ早速持って来る服の指示を始める。

そんな二人の会話を聞いていた理紗子は健吾におずおずと言った。


「あの、汚れたのはパンツだけなので…」

「美和さんのセンスは抜群だから、遠慮しないで選んで貰うといいよ」


健吾は笑みを浮かべながら言うと、理紗子の訴えはバッサリと却下する。

何を言っても無駄なようだ。

仕方なく理紗子は黙り込む。


(この人一体何者? なんで見ず知らずの私にこんな高級な服を買ってくれようとしているの? これじゃあまるで小説の中に

出てくるスパダリ系男子みたいじゃない)


理紗子は自分が恋愛小説を書いているくせに、まさか本当に小説に出て来るような男がいるとは思ってもいなかったので

驚いていた。


その時美和子が来て理紗子に声をかける。


「えっと、水野さんの下のお名前は?」

「あ、理紗子と申します」

「理紗子さんね、じゃあ準備が出来たからこちらにいらして」


美和子は理紗子の背中に手を添えると、奥のフィッティングルームへ連れて行った。


二人が奥に姿を消すと、健吾は壁際にあるソファーへ腰を下ろしてフーッと息を吐いた。

そして店内を見回す。

すると買い物をしていた女性客達が、一斉に健吾に熱い視線を投げかけてくる。


「この素敵なイケメンは芸能人なのかしら?」

「妙な色気とオーラがあるけれど、もしかして有名人?」

「背が高くてスタイルがいいからモデルかしら?」


おそらくそんな事を考えているのだろう。

女性達は健吾の一挙一動を見逃さないようにと、チラチラと視線を送って来る。


(ったく面倒臭いな…)


健吾はうんざりした様子でため息をつくと、女性達の視線を振り払うようにスマホを取り出した。

そして現在持っているポジションの相場チェックを始める。


相場には特に動きがないようだったので、ひとまずそのままにしておく事にする。

それから健吾はSNSのつぶやきサイトを開いた。

そして、


『水野リサ』


を検索をかける。

すると検索結果のトップには、理紗子の小説家としての公式アカウントが表示された。

理紗子のアカウントのフォロワー数はかなりの数に上る。

話題の人気小説家ということで、女性ファンが多いようだ。


健吾は早速彼女の直近のつぶやきをチェックする。


【今度の新作は石垣島を舞台にしたものになりそう!】


するとコメント欄には、


【キャー! 楽しみです!】

【南の島を舞台にした小説は初ですね! 楽しみにしています!】

【石垣島には取材旅行に行くのですかー?】


ファンからは様々なコメントが入っていた。


(女性に人気なんだな…)


健吾は更に過去に遡って投稿をチェックしていく。

すると今度は、


【杉並のこのカフェとは今日でお別れ😢】


という言葉がカフェの写真と共にアップされていた。

そのカフェはどうみても健吾が経営するカフェのようだ。

カップの下に敷いてある紙ナプキンには、


『cafe over the moon』


というロゴがしっかりと印字されている。


【杉並のどの店だ? 窓の外の景色からすると、高井戸か浜田山辺りか?】


健吾はそう思いながら、更に下にスクロールしていく。

すると今度は、


【来週引っ越す事になりました。長く暮らした杉並区とはお別れです😢】


と書いてある。

その一文を見た健吾は、何かに納得したように頷いた。

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