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俺様生徒会長に鳴かされて。

44 - Last Lesson わたしは、あなただけの小鳥 14

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2025年03月11日

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シンデレラを抱き締めたまま微動だにしない王子様に、ざわざわと観客も訝しがり始めていたから…。

ゴーン…

と、その時、ナイスタイミングで十二時の鐘が鳴った。

シンデレラはここで、王子様と離れなきゃならない…。

彪斗くんがゆっくりと腕を下ろしたところで、わたしはのろのろと後ずさり、

『ごめんなさい…わたしもう行かなきゃ…』

とセリフをつぶやいて、本当に後ろ髪を引かれるように、何度も何度も振り返りながら、舞台袖に戻った。

彪斗くんは、ふっと気づいたように残されたガラスの靴を手に取った。

手で弄びながら、少しずつ気を取り直したみたいで、その後はなんとも無かったように演技を続ける。

ああ、びっくりした…。

でも、彪斗くんの温もりと声は、まだ身体全体に残っていて、わたしは思わず、ぎゅっと自分の身体を抱き締める…。

「優羽ちゃーん!!!」

と、そこへ、余韻に浸るひまもなく抱きついてきたのは、寧音ちゃんだ。

「よかったよ優羽ちゃん!

すっごいよかった!私もう泣きそうになった!!」

「そ、そんなことないよ…最後はやっぱり失敗しちゃったし…」

「ダンスは最後はちょっと惜しかったけど、でもほぼ完ぺきだったよ!でもそれ以上に…!」

寧音ちゃんは、まるで自分のことのように、嬉しくてたまらない、って満面の笑顔を浮かべた。

「できたんだね!?彪斗と仲直り」

「……」

仲直り…か。

さっすが寧音ちゃん。

もうとっくに解かってたんだな…。

わたしはおずおずとピースサインを出すと、笑顔を返した。

「うん…できたよ。仲直り。ばっちりだよ…!」





彪斗くんはその後もステージに残って演技を続けている。

なにごとも無かったように、俺サマな王子様に戻って、『ガラスの靴を頼りに、シンデレラを必ず見つけよ』と命じている。

よし、あともう少し。

最後はふたりで作ったあの曲を歌う場面が待っている。

ドレスからボロ服に着替え終わっても、まだ少し出番には時間があった。

水分を取ってちょっとリラックスしていたら、思い出したように、胸がドキドキしてきた…。

なんだか、緊張…してきたなぁ…。

こんな大勢の前で歌うのは初めてだしな…。

こ、こんな時は誰かとおしゃべりして気を紛らわそう…と思っても、裏方さんも大忙しだし、寧音ちゃんも洸くんも出番が近いので話し掛ける隙がない…。

うーん…けっこう大声でセリフを張り上げてたつもりだから、声も枯れてないか心配だし…ちょっと発声練習しよっかな。

と、通用口から廊下にそっと出たところで、

「あ、あら」

わたしは、見覚えのある人と鉢合わせした。

「…玲奈さん?」

玲奈さんは笑顔を浮かべて、「おつかれさま」とちょっとぎこちない口調で言った。

ここ、関係者以外立ち入り禁止なんだけどな…。

どうしてこんなところに…。

「ちょっとお手洗いにね」

「…お手洗いなら、ここをもうちょっと行った先ですけど…。あっち行っても…機械室しかなかったですよね?」

「そ、そうなのよ。だから引き返してきたんだけど…」

お手洗いって言ってしまったのが気まずかったのか…玲奈さんはなにかそわそわしている。

「それよりも、さっきのダンス素敵だったね、見ちがえたわ。劇もなかなか楽しいじゃない」

「ありがとうございます」

「この前は、ひどいことして悪かったわ。…がんばってね」

「…はい」

玲奈さん…わたしを認めてくれた…のかな…。

そそくさと行ってしまう玲奈さんの華奢な背中を見つめていたら、

「優羽ちゃん?」

機械室にいるはずの雪矢さんが通用口からでてきた。

「雪矢さん、機械室じゃ?」

「ちょっと反響版の角度を確認したくてね。もう間もなく歌のパートだろ?」

「あ、はい…!」

言われて思い出す。

ああ、もう時間ないな…戻らなきゃ…。

「さっきのダンスパートもすごく良かったよ。この調子でがんばって。君にとってはきっと、次が本当の本番だから」

そうだ…。

そのとおりだ。

わたしの歌声を多くの人に聴いてもらう初めてのステージ…

不思議と緊張は消えて、胸が高揚してくる…。

「はい。がんばりますね」

わたしは、にっこりと笑った。

この後、非常事態が起こるなんて、夢にも思わず…。





国中の娘の脚にガラスの靴を合わせ回った王子様たちが最後にやって来たのは、シンデレラの家。

靴が合わないとコミカルに暴れる姉。

継母とのピリリとしたやりとり。

そんな三人の迫真の演技を経て、いよいよわたしが再登場する。

彪斗くんと仲直りしたあとのステージでの再会。

ちょっと緊張しているのがバレたのか、彪斗くんはちょっと意地悪げに口端をあげている…。

もう、すっかりいつもの意地悪さんだ。

わたしは少し胸を張りながら、ステージに出て行った。

みすぼらしい姿で現れるシンデレラ。

ぼろを着て煤に汚れた娘は、とてもあの夜の高貴な美少女には見えなかった。

それでも王子様は、下働きで汚れた脚に、ガラスの靴を履かせ…。

ぴったりと合うのを確認するやいなや、シンデレラを引き寄せ、煤で汚れたその顔を、素手でぬぐう。

現れたあの夜の愛おしい娘の顔を両手で包んで、王子様は万感の想いをこめた吐息をもらす…。

『…やっと、見つけた』

『おどろかれましたか…。偽って、ごめんなさい…』

けどシンデレラは苦々しく続ける。

『わたしの名前はシンデレラ。灰かぶりのシンデレラ…』

そうして語られ始める真実…。

さぁいよいよ、だ…。

ここから音楽が流れて、歌い始めることになっている―――

のだけれど。

わたしと彪斗くんは、思わず互いを一瞥し合った。

曲が、流れてこない―――。

俺様生徒会長に鳴かされて。

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