その頃涼平は駅の近くにあるショッピングモールにいた。
最近引っ越しでバタバタしていたので、なかなか買い物に行く時間が作れなかった。
だから今日は久しぶりにゆっくり店を見て回ろうと思う。
このショッピングモールにはまだ数回しか来た事がない。
おまけにいつも欲しい物だけを買ってすぐに帰ったので、ここにどんな店舗が入っているかを把握していなかった。
ここには映画館も併設されているので、いつか詩帆と来る機会があるかもしれない。
だから今日は下見を兼ねて、気になる店には全部入ってみようと思っていた。
モール内を歩きながら、涼平は詩帆からの返事がない事が少し気になっていた。
涼平は鳴らない携帯を何度もポケットから出し入れし、詩帆から返信が来ていないかをチェックする。
もしかしたら今は仕事中? それとも、俺と付き合うと答えたものの実は後悔しているとか?
そんな思いが頭の中をぐるぐると駆け巡り、涼平は買い物に集中することが出来ずにいた。
その時涼平の携帯が鳴った。
涼平は慌ててポケットから携帯を取り出すと画面を見る。
するとメッセージの着信があったので急いで画面を開いた。あまりにも慌てたので危うく携帯を落としそうになった。
涼平は自分が好きな子の一挙一動に反応する男子高校生のようになっている事に気づき思わず笑ってしまう。
こういう感覚はすごく懐かしい。こんな気持ちはいつ以来だ? それは菜々子と出逢った頃の記憶を飛び越えて、さらに昔の中
学時代の初恋の時を思い出していた。
「初恋か……」
涼平はそう呟いてから空を見上げた。
そして微笑みながら視線を携帯に戻すと、詩帆のメッセージを読み始める。
(江ノ島か!)
涼平は心の中で
(よっしゃ!)
と呟くと、すぐに返信した。
「了解! 土日のどちらかで休みが取れたら連絡下さい。その日に行きましょう!」
涼平はメッセージを送信してからそこでまた気付いた。
すぐに返事を送るなんて事も、ここ最近ほとんどなかった。
大抵はその日の夜とか、翌日とか、女性への返信はいつもそんな感じだった。
詩帆に対してだけは無意識に即返信している自分に気づき、また笑ってしまう。
「マジで初恋かよ」
久しぶりの恋愛というのは、どうやら男を初恋と同じ気持ちにさせるらしい。
涼平は穏やかな笑みを浮かべたまま、ショッピングモール内の書店へ向かった。
店に入ると、すぐに観光地のガイドブックがある棚の前へ行く。
そこで江ノ島が載っている本を手に取るとパラパラとめくった。
しかしガイドブックにに載っている情報は、どれもありきたりのものばかりだった。
これだったら、自分のお気に入りの店や知っている場所に連れて行った方が楽しめるような気がした。
涼平は本を棚に戻すと書店を出た。
その後、涼平は服を数着買ってからレストラン街を見て歩いた。
レストラン街の一番奥まで行くと、ハワイ風の店を見つける。
その店はワイキキに本店があるハワイ料理専門のレストランだった。
涼平は昔ハワイに行った時、この店に入った事を思い出す。
「懐かしいな。入ってみるか」
涼平は店に入るとカウンター席へ座った。
メニューを見ると、鮮やかなハワイ料理の写真がいくつも載っていた。
涼平はその日朝から何も食べていなかった事に気づき、サーモンとマヒマヒのライスボウルを頼んだ。
料理を待っている間、涼平はハワイでこのレストランに入った時の事を思い出していた。
あの時は菜々子と一緒だった。
二人は旅行中に些細な事で喧嘩をして、
ワイキキにあるこの店で仲直りをした事を今でも覚えている。
涼平はその時のハワイ旅行で菜々子にプロポーズをした。
(確か喧嘩をして仲直りをした日の夜に、海でプロポーズをしたんだっけな……)
涼平はその当時を懐かしく思い出しながら、少し感傷に浸っていた。
そこへ、注文した料理が運ばれて来たので涼平は食べ始める。
味はハワイの本店と同じでとても美味しかった。
食べながら何気なくメニューを見ていると、後ろのページにスイーツが沢山載っているのを見つける。
(詩帆ちゃんが好きそうなデザートがいっぱいあるなー。でも元カノとの思い出のレストランに詩帆ちゃんを連れて来るの
はNGかもしれない)
そんな事を思いながら、涼平は何げなく店内を見回した。
土曜日という事もあり、店はカップルや家族連れで賑わっていた。
窓の外には広いテラス席がありとても気持ちよさそうだ。
晴れた暖かい日だったら今の季節でもまだ大丈夫かもしれない。テラス席が好きな詩帆がきっと喜ぶだろうなーと思う。
そこで涼平はハッとした。
先ほど菜々子を思い出して感傷に浸っていたはずなのに、今は詩帆の事ばかり考えている。
詩帆が好きそう、詩帆が喜びそう、そんな事ばかりを考えている自分に気づいた。
玲子と付き合っている時はそんな事は一度もなかった。
逆に、玲子と一緒にいる時は玲子を菜々子と比較してしまう事がよくあった。
あの頃は、他の女性と一緒にいればいるほど菜々子の事を思い出してばかりで辛かった。
しかし詩帆と一緒にいる時にはそんな事は一度もなかった。
涼平はそこで確信した。
(俺はもう次の恋に進み始めている)
詩帆と出逢ってから、涼平は菜々子の事を思い出さなくなっている事に気付いた。
そしてその事実は、涼平に何かとてつもない自信のようなものを与えてくれているような気がした。
コメント
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菜々子<詩帆❣️それで良いんです、涼平さん。 菜々子さんは過去の恋人でもう過ぎ去った方なんです…いつまでも囚われてるのは菜々子さんも悲しむと思うな💔 恋愛は異性なら誰でもできるわけじゃ無いし、涼平さんが誰よりも詩帆ちゃんを大切に思う気持ちが溢れてると思うわ〜🥰