次の週の月曜日、詩帆は早番シフトでカフェに出勤していた。
あれから涼平に次の土曜日に休みが貰えたとメッセージを送ると、すぐに返事が来て、
【じゃあその日に行きましょう】
と、初デートは土曜日に決まった。
詩帆は楽しみな気持ちと緊張が複雑に入り交じり、少しドキドキしていた。
急に思いついて江の島にしてしまったが、果たして江の島で間が持つのだろうか?
何を着て行ったらいいのか? などといいう新たな問題で頭を悩ませていた。
しかしもうここまで来たら成るようになれだ。
そう覚悟を決めた詩帆は、今は仕事に集中する事にした。
午後になるとカフェのマネージャーが遅番で出勤して来たので、詩帆はもう一つの難題にチャレンジした。
マネージャーに、毎週月曜の午前中を休みにしてもらう事は可能かを打診した。
するとマネージャーから理由を聞かれたので、詩帆は正直にフリースクールの美術教師の件を話した。
詩帆の話を聞いたマネージャーは、
「すごいじゃないですか!」
と喜んでくれて、月曜日の午前中は比較的空いている時間帯なので問題ないですよと言ってくれた。
この店のスタッフは、カフェの仕事と並行して他の仕事や趣味を両立させている人がとても多い。
スタッフを応援してくれるこの会社の企業姿勢に、詩帆は感謝の気持ちでいっぱいだった。
詩帆はその日の仕事を終えると、アパートに戻ってから早速優子に電話をした。
優子は大喜びしていた。そして、仕事は十一月からスタートだと話した。
その前に一度学校まで見学にいらっしゃいという事になり、詩帆はシフト表を見て見学に行ける日を優子に伝えた。
そして優子との電話を切る。
詩帆はフーッと深呼吸をするとばんざいをして「やったー!」というポーズをとった。
たった今、絵に関する仕事を自らの手でゲットしたからだ。
詩帆はなんとも言えない充足感で満たされていた。
フリースクールに来る子供たちは、それぞれ問題を抱えていて教える側にも責任が伴う。
しかし詩帆はそんな子供たちに寄り添った授業ができればと思っていた。とてもやりがいのある仕事だ。
詩帆は今のこの嬉しい気持ちを誰かに伝えたくなった。
すると一番最初に思い浮かんだのは涼平の顔だった。
詩帆は一瞬戸惑ったが、元々この話は涼平を介して実現した話だ。だから涼平に知らせておくのは当然だろう。
そう自分に言い聞かせ、詩帆は涼平へメッセージを送った。
「お疲れ様です。優子さんのフリースクールの教師の件、引き受ける事になりました。夏樹さんが優子さんを紹介してくれたお
陰です。ありがとうございました」
詩帆はメッセージを送った後、窓辺に行き空を見上げた。
夕暮れ時の空は、今まさに一面ピンク色に染まろうとしている。
「夕焼け……」
詩帆は自分の転機の第一歩になったこの日の夕焼けを決して忘れない…そう思いながら、美しい夕焼けをいつまでも見つめ続け
ていた。
その頃、涼平は会議室で新しい商業施設の設計についてのミーティングをしていた。
サーファーが多いこの設計事務所では、普段は軽口をたたいて社員同士アットホームに騒いでいるが会議となると真剣そのもの
だ。
やる時は本気を出してきっちりやる…そういう社員が多いので、会議では積極的で前向きな意見が飛び交いとても建設的な話し
合いとなった。
この日も、斬新なアイディアが、若手の社員から次々と飛び出し大いに盛り上がる。
漸く会議が一段落すると、午後五時を回っていた。
会議室を出た涼平は、コーヒーを入れてから自分の席へ戻った。
コーヒーを飲みながら何気なくポケットから携帯を取り出すと、メッセージの着信があった。
メッセージは詩帆からだったので、涼平は慌ててメッセージを読んだ。
メッセージを読むと、涼平は嬉しそうな顔になる。そしてすぐに返信した。
【おめでとう! 俺のお陰じゃなくて詩帆ちゃんが勇気を出して一歩を踏み出した成果だよ。良かったね】
そんな涼平の様子を見ながら加納がニヤニヤして言った。
「なんか、楽しそうだな」
「いや、実は詩帆ちゃんが優子さんのスクールの美術教師の件を引き受けたみたいです」
「そうか。そりゃ良かったな。優子さんもいい人材が身近にいたので助かっただろうな」
すると傍にいた佐野が口を挟む。
「詩帆さんみたいな美人教師がいるんだったら、俺、もう一度学校に行きたいっす」
佐野が言った言葉を聞いて、涼平と加納は大笑いをしていた。
その時涼平は、詩帆からメッセージが来たことが嬉しくて満たされた気持ちになっていた。
涼平が何気なく窓の外を見ると、空がピンク色に染まり始めて今まさに美しい夕焼けが始まろうとしていた。
コメント
4件
詩帆ちゃんの前向きな決断と会社の支援が物事を良い方向に進めてらように感じるわぁ😊👍 希望の江ノ島に初デート💕初めて尽くしが涼平さんと叶えられるのはとってもとっても嬉しい😊🎶
ゆう事の→優子との ?