テラーノベル
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「夏が来る」
「メロンパフェが始まったからね」
背後からの声に、思わずエクセの夏期限定メロンパフェを思い浮かべる。
ちょうど先週、エクセのメルマガでメロンパフェが始まったと知った。
エクセのメロンパフェは青肉を使っているから、さっぱりしていて食べやすい。
パフェ~~~……。
と項垂れたところで、ようやく聞こえた声は幻聴じゃないと気が付いた。
振り返る。
爽やかな笑顔が目に飛び込んできて、思わず仰け反った。
仕事終わりの疲れ切った目と脳とお腹を空かせた身体には眩しすぎる。
申し訳程度にしか塗っていないファンデーションすらテカテカのドロドロな私とは大違いで、出勤時にお目にかかれたら一日頑張れそうな、太陽を連想させるような柔らかな微笑み。
ハリネズミのハリが立っていない時のような、きちんとしていそうで遊び心のある髪型に、シャープな顔立ち、キリッとした眉と目。
身長も高い。
艶のあるスーツは高級そうだ。
ん?
デジャブ?
つい最近、全く同じことを思ったような気がする。
「三度目まして」
お声まで素敵。
耳元で囁かれたら、それだけで身体が疼いてしまいそうだ。
ん?
三度目……まして?
「あれ、わかんない? 死相が出ていた男です」
「あっ!」
遅い。
我ながら気づくのが遅すぎる。
朝は本気で急いでいたし、変な女認定受けるのはわかりきっていたから、そこまでまじまじと観察もできなかったのだが、それにしてもこんないい男を忘れるだなんて勿体なさすぎる。
眠る前に思い出すだけで幸せな夢を見られそうなのに。
実際にいい夢を見られるかはともかく、目の前のイケメンさんにしてみれば、占い師気取りの変な女がカフェの看板を見て涎を垂らしていたから、面白くて声をかけてくださっただけだろうが、ありがたい。
私は深々と頭を下げた。
「今朝は、突然変なことを言ってしまって、すみませんでした」
「え? あ、いや」
「地下鉄の中で転寝をしていたせいで寝惚けていたようです。不愉快なお気持ちにさせてしまい、本当に――」
「――違うよ! 俺は、お礼が言いたかったんだ」
「え?」
意外なお言葉に、私は腰を伸ばした。
「ありがとう。きみの言葉のお陰で……って言っていいのかわからないけど、とにかく災難に巻き込まれずに済んだよ」
イケメンさんが、眩い笑顔で言った。
「なにか……あったんですか?」
「ああ。……あ、ねぇ、折角だし、お礼にご馳走させてくれないかな。ちょうどカフェの前だし」
私は夢を見ているのだろうか。
極上のイケメンさんが私をご馳走だと言ってくださっている。
と、あらぬ勘違いと思い込みで呆けている私に、微かに持ちこたえている正常な聴力と思考力が訴える。
『鏡で全身見て出直せ!』
背筋に悪寒が走る。
「それとも、違う店がいいかな。あ、大〇のレストラン街なら色んなお店が入ってるから――」
「――パンケーキ! ……が食べたいです」
気を遣わせまいと咄嗟に言った言葉に、自己嫌悪する。
ああっ……!
夏はすぐそこなのに――っ!!
「そ? じゃ、食べながら話そう」
極上イケメンを目の前にして、生クリームたっぷりパンケーキを頬張る自分を想像して、泣きたくなる。
いや、生クリームなしのパンケーキにすればいいのでは?
そうだ。
サラダっぽいのもあったはず。
「さあ、好きなものを好きなだけ頼んでよ」
ラミネートされたつやっつやのメニューに、立体感たっぷりの生クリームを見ると、私のお腹が盛大にファンファーレを奏でた。
恥ずかしさのあまり、メニューで顔を隠す。
「あ、俺、ローストビーフ丼とーーーチョコのパンケーキにしようかな。へぇ、スイートとビターが選べるんだって」
極上イケメンさんが言ったメニューを探す。
右上にローストビーフ丼とローストビーフサンドの写真を見つけ、思わず値段を確認する。
ドリンク付きで千九百八十円。
美味しそうだ。
私はメニューをぐるっと一周見て、「サラダの……パンケーキにします」と呟いた。
メニューで見た神々しいパンケーキたちを思い浮かべながら食べれば、きっとサラダも生クリームの味に感じるだろう。
「え? それだけ?」
「は、はい」
「じゃあ、俺はパンケーキやめようかな」
「え!? どうしてですか?」
メニューを閉じて彼を見ると、ちょっとだけわざとらしく口を捻らせていた。
「だって、男女で食事してるのに、男だけクリームのパンケーキって恥ずかしくない?」
「そんなこと! 全然、全然恥ずかしくないですよ!!」
「いや、やっぱり俺はちょっと恥ずかしいかな。あ、でも気にしないで。全然! お礼なんだから、きみはきみの本当に食べたいものを頼んでよ」
うっ……と喉を鳴らす。
極上イケメンさんの優しさが胸を締め付ける。
本当は生クリームたっぷりチョコレートがけパンケーキにミントアイスをトッピングして食べたい。
けれど、言えない。
アラサーのぽちゃこが食べていいものではない。
「こんなに食べられなーい」
通路を挟んで隣の席の若い女性の黄色い声に、ハッとした。
生クリームたっぷりイチゴのパンケーキにスマホを向けている。
あのボリューム、お値段以上……!
思わずガン見してしまう。
エベレストを彷彿させるようなパンケーキの上に聳え立つ生クリームのフォルムの美しさよ。縦半分にカットされた真っ赤なイチゴが周囲を舞い踊るように添えられている。
ああっ!
早く食べないと融けてしまう!
思わずゴクッと唾を飲む。
写真を撮り終えた女性は、スマホを正面に座る恋人らしき男性に手渡し、パンケーキの皿を顔の横に持ち上げた。
顔より大きいパンケーキ!
女性が小顔なのもあるだろうが、それにしても恰幅の良さよ。
ようやく食べるのかと思いきや、女性はフォークでイチゴをさして食べる真似をし、カメラに視線を送る。
な、なぜ!
なぜそこで止められるの!?
コメント
1件
いやかわいいかぁぁぁああ!!! パンケーキ頬張ってるとこ見させてください 絶対かわいい🥺🥺 見れる人羨ましい🤤🤤🤤