2回目のアイアンクローでまたもこめかみを押さえて悶えながら幼女は事の経緯を説明してきた。
「私たちはの、お主たちの世界の狭間にあって見守る存在よの。と言っても過度な干渉をしたりはせんよ? たまに落っこちてくる者を送り返す事くらいはするけどの。その時にこの精霊界の事を忘れてもらうためにああやって襲ってるのよ」
「意味がわからん。さっさと記憶を消して帰せばいいだろう」
俺はこの姿と言葉と声がミスマッチな幼女が何を言いたいのかが分からない。言い訳でもしてるつもりか?
「記憶なんてのはそう簡単に変えられる者じゃないよの。だからこっちから強烈な記憶を与えてそれごと引き抜くよの」
そういう仕組みだと言う事だ。魔術でも何でもそうだが、自分たちの知識や常識で測れない事象というものは、そういう仕組みなのだと知るところから始まる。そしてこの者たちが実際にそうしているのであれば、そうなのだろう。
「それでな、こやつらがお主を連れてきたわけだが……お主本当に神の類ではないのかの?」
「くどい。俺はただのヒト種だ」
女王は幼女らしからぬ笑みを浮かべる。
「それは嘘だねぇ。私たちは迷い込んだ者を送り返したり外の世界の良くないものを浄化したりするけど、それは結局ここに蓄積されていくよの。長い年月をかけて。それがさっきお主が見たもの。余り溜めすぎるとここも破綻しかねないが、それを解決し得る相手をこの子たちは連れてきてくれて、結果として私のこの姿……サイズがここまでになるほどに消し去ってくれたよの。そんな所業をただのヒト種が出来るわけないであろうに」
殺すつもりでいったからな。
「この精霊界の女王の私をしてお主の底が見えん。そんなもの神より他ないとばかり思っていたが。もしや転移者というやつかの?」
「まあ、似たようなものだ。俺の場合は転生者というものだがな」
相手が相手だ。いちいち隠すこともないだろう。
目の前の幼女は目を見開いて何かに驚いたようであったが、しばらくして「なるほどなるほどー」と納得したように頷く。
「何がなるほどなんだ?」
「いや、の。少し前のことではあるのだが、お主らの時間でなら割と昔かの? この精霊界に夜がやってきたのよ。夜。何を言っているのかと思うだろうが、ここはお主らの世界とは異なるもので、天体という概念などない。つまりは太陽や月はおろか空も星もないよの。ここはいつもこうなのよ。だから、夜──つまり空が黒くなって星が出るなんて有り得なくてな」
幼女は「あれには驚いた」と呟き俺を見る。
「それは謎だな。つまりはあり得ない事が起こったという事なのだろう。世界でも書き換えられたか?」
そう言うと幼女は楽しそうにくっくと笑った。
「世界の書き換えか。さすがに言う事のスケールが大きいのぅ。そこまでのとんでもない話では無い。では無いが、初めての事ではあったな。空というよりはこの精霊界の周りを祈りが包んだよの。黒く、暗く、閉ざされた者たちのどうしようもない現実が映されたようなその中に、星が出ていたよの。その星は1つの魂が不確かな術によって喚ばれたために砕け散ったものだったよの」
「年寄りの昔語りが長いのはどこも同じか」
「そう言うでない。もう終わるから……ふぅ。つまりその星がお主だったと言う事よの。あいだだだだだだだ! やめ! やめれ! こめかみを挟むのはやめれっ!」
「端折りすぎだ。なぜそうなる? 聞かせろ」
早くあの呪いをどうにかしたいというのに、よく分からん展開になってきた。
「気が逸るのは分かるが、今ここにいる間もお主の展開していた時間遅延の魔術は続いておる。慌てるでないよの」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!