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肩に力入れずにスムーズに話が出来るって良いよね。星から始まり宝石に至るまで話が尽きなく出来て2人共良いわ。
元気が出るカラーのオレンジ色トパーズ。 なのに悲しみの涙で出来ているのは何故なんだろう。 気になります〜。
良い雰囲気のふたり🧡この時間がずっと続いてほしい(*´∀`*) トパーズの色も好きな色が合っていてもう、キューン🧡としちゃう🧡 ベテルギウスと言えばリゲル。オリオン座の星はこの二つしか知りません…😅 関係ないけど好きな星、私はシリウスです🌟ハリポタにも登場人物の名前にあって、他にも星の名前結構出てきますね~🤩(ハリポタも好き🧡)
夏彦の車は国産のSUV車で、まだ新しかった。
「どうぞ!」
夏彦がドアを開けてくれたので、美空は礼を言って助手席に乗った。
そして、二台の車は長野を目指して出発した。
美空がバスやタクシー以外の車に乗るのは久しぶりだった。
家族で暮らしていた頃は、父の車によく乗った。しかし、両親がいなくなってからは、そうした機会はなくなった。
伯母は自ら運転し、娘二人を連れてよく買い物に行っていた。しかし、美空はいつも留守番をしていた。
伯父に「一緒に行けばいいのに」と言われても、遠慮して行かなかった。
その理由は、母娘三人の邪魔をしてはいけないと思ったからだ。
大学時代、美空はサークルに入っていなかったので、仲間と車で出掛ける機会もなかった。
学生時代はバイトに没頭していたので、美空には『青春』らしい体験が何もなかった。
そのことを思い返し、美空は愕然とする。
「何を考えてるの?」
静かにしていた美空に、夏彦がそう尋ねた。
「あっ、いえ……久しぶりに車に乗ったなと思って……」
「へぇ、そうなんだ。免許は取らなかったの?」
「はい」
「ご両親が危ないって言ったとか?」
夏彦は笑いながら言った。
「…………」
美空は黙り込んだ。
「あれ? 何か気に障ったかな?」
「あ、いえ、そうじゃなくて……もう両親はいないんで……」
「え? そうだったんだ。なんか、ごめん……」
「いえ、もう昔のことですから」
美空は、夏彦を心配させないように微笑む。
「ご両親は小さい頃に?」
「はい。8歳の時でした」
「それってご両親揃ってってこと? 事故か何かで?」
「はい、交通事故でした」
「それは大変だったね。それからは? どこで暮らしたの?」
「祖母のところに数年いましたが、祖母が亡くなった後は伯父の家にお世話になりました」
「そっか。小さいのに大変だったね。今も、伯父さんの家?」
「いえ、今は一人暮らしです」
「あ、そっか。たしか山梨だったよね?」
「はい。え? なぜそれを?」
「合コンの時に聞こえたんだ。伯父さんの家は山梨のどの辺り?」
「上野原って分かりますか?」
「もちろん。山梨にも星を観に行くから、わりと詳しいよ」
「そうでしたか」
「八ヶ岳の方とかね」
「あ、そっか」
「じゃあ東京に来た時、がっかりしたでしょう? 星がほとんど観えないから」
「はい。すごくがっかりしました」
「だよね。僕なんか東京育ちだからずっと思ってるよ。東京は何でこんなに光害がひどいんだろうって」
夏彦はそう言って笑った。
そこから話題は星の話に変わった。
「好きな星座って何?」
夏彦は、合コンの時に美空が自己紹介で話した内容を覚えていた。
「オレンジ色の星が好きなので、オリオン座ですね」
「なるほど、べテルギウスか……」
この星の名前がすぐに返ってきたので、美空は嬉しくなった。
星が本当に好きな人なら、自然に出てくる名前だ。
結衣に誘われて何度か合コンに出たが、今までこの星の名前を口にした人は一人もいなかった。
「ベテルギウスの超新星爆発、気になるけど、それが起きる頃には生きてないよなぁ……」
「星のタイムスケールは、とてつもなく長いですからね」
「そうだね。今見えている星も、きっと今この瞬間しか見られない。そう思うと、感慨深いよね」
美空は夏彦の言葉に深く頷いた。
星は変わらず毎日そこにあるように見えるが、実は『今この瞬間』にしか見られない存在だ。
夏彦はそのことをよく知っていた。
星をのことをよく理解している人が隣にいると思うと、美空はなんだか嬉しかった。
しばらく星の話に花を咲かせた後、二人は互いの仕事の話を始めた。
夏彦は、商社のエネルギー第一本部という部署に所属していると言う。商社の業務内容に詳しくない美空でも、そこが理系の知識が必要な部署だとすぐに分かった。
(本当に頭がいいんだ……)
美空は、夏彦の話を聞きながら、密かに尊敬の念を抱いた。
その後、美空は夏彦に自分の仕事を説明した。
夏彦は鉱物類にも詳しく、美空が話す宝石のことをほとんど知っていた。
男性でこれほど宝石に詳しい人に出会ったのは初めてだったため、美空は驚いた。
「僕の誕生日は七月だから、誕生石は何かなって前に調べたんだけど、ルビーだったよ。ルビーはコランダム系でしょ?」
「うわぁ、さすが詳しいですね!」
「うん。でもさ、男なのに赤い石っていうのもねえ……。同じコランダムなら、青いサファイアの方がよかったなーって思ったよ。誕生石は選べないから困っちゃうよね」
夏彦はそう言って笑った。
「まあでも、男の人は宝石を身につけないから、特に問題はないかも!」
「あ、確かに!」
二人は声を出して笑った。
「小島さんは何月生まれ?」
「11月です。誕生石はトパーズです」
「トパーズっていうと……黄玉?」
「うわっ、すごい! トパーズもご存知なんて」
「確か水晶より硬度が高いんだよね?」
「そうです! 結構頑丈なんです!」
「トパーズってさ、ブルートパーズが有名だけど、僕はオレンジ色のトパーズの方が好きだな」
美空は、夏彦が自分と同じ考えを持っていたことに驚いた。
(私も、オレンジ色のトパーズの方が好き。だって、お姫様の悲しみの涙で作ったんだもの……)
美空の胸の中がじんわりと熱くなった。
「あ! そういえば、ベテルギウスもトパーズっぽい色だよね」
「そうです!」
美空がオリオン座を好きな理由は、トパーズに似た色のベテルギウスがあるからだった。
夏彦がそれに気づいてくれたので、嬉しくなった。
「オレンジ色って元気が出る色だよね」
「はい!」
その瞬間、美空の胸の中が、温かいもので満たされていくような感じがした。
夏彦との楽しい会話は、その後も続いた。
一度休憩を挟んだ後、再び高速を走り続け、やがて車はインターを出て一般道に入った。