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恵菜の両親を前にして、純は、約三十五年の人生で経験した事のない緊張感を味わっている。
(彼女のご両親に、俺の恵菜に対する想いを、聞いてもらえるチャンスだ……)
純は、神妙な面持ちで、徐に口を開いた。
「…………昨夜、恵菜さんから私宛に、メッセージが届きました。その後、私から恵菜さんに直接電話をしたら、吉祥寺にいるとの事で、私の自宅が吉祥寺なので、すぐに彼女に会いに行きました」
元姑が、恵菜の職場近くで待ち伏せしていた事を始め、元夫、早瀬勇人の不倫相手、汐田理穂にも待ち伏せされた事。
勇人の母親には、息子と復縁して欲しい、不倫相手には、勇人ともう会うな、と言われ、恵菜は二人から誹謗中傷を浴びせられた事……。
「恵菜? 向こうのお義母さんと、勇人くんの不倫相手に会ったって…………本当なの!?」
「不倫相手は…………昨日、仕事が終わってから……会った……」
彼女の母が目を丸くし、声を上ずらせながら問いただすと、恵菜は肯首した後、俯いた。
恵菜は両親にも、元姑に会った件は一切話さず、心の中に留めていたようだった。
「恵菜さんの話を聞き、私は、彼女を守りたい、傷ついた心を癒したいと思ってましたし、私自身、彼女に一目惚れしていたので、昨日、恵菜さんに私の正直な想いを打ち明けました」
「そう言えば、昨日は友人の家に泊まるって連絡があったけど…………それは、谷岡くんの家だったの……?」
心配そうな表情の恵菜の母が、遠慮がちに彼女の表情を覗き込んだ。
「うん…………」
恵菜の返事を聞き、両親が彼女を責めそうな雰囲気を感じ取った純が、やんわりと制する。
「私が、こんな事を言える立場ではないですが、どうか恵菜さんを責めないであげて下さい。彼女の離婚後に受けた心の傷は、相当深いものだと思うので。それに……」
純は、隣に座って小さくなっている恵菜を見やった。
「恵菜さんのご両親が危惧している事、私は一切してません。彼女は、元家族の事を全部解決させてから、私とお付き合いしたいと言ってくれています」
純の話を聞きながら、恵菜は、視線を落としたまま。
「昨夜は悪天候で、会った時間も遅かったので、一人で家に帰らせる事を危険と思った私は、彼女を自宅に泊め、今朝、恵菜さんが帰るというので、私が送った次第です」
両親が純から恵菜に眼差し送ると、彼の話に黙って耳を傾けていた彼女の父が、固く閉ざしていた口を開いた。