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その日の夕方、空はどんよりと曇り、ぽつ、ぽつ……と雨が降り始めた。
澪は縁側に座り、静かに雨を眺めていた。
(……雨の日に、朧さんと出会ったんだよね)
思い返すと胸が温かくなる。
そこへ──
「澪さん」
朧がそっと隣に座った。
「雨は……嫌いですか」
「いえ……むしろ、落ち着きます。
朧さんと出会った日も……雨でしたから」
朧は一瞬だけ目を見開き、すぐに柔らかく目を細めた。
「……覚えてくださったのですね」
「はい。忘れられません」
雨音が、ふたりの間を静かに満たす。
突然その時──
ごろごろ……っ!
雷が鳴り、澪は思わず肩を震わせた。
「っ……!」
「澪さん?」
「す、すみません……雷が……少し苦手で……」
朧は迷うように一瞬だけ手を伸ばし、そして決心したように澪の手を包んだ。
「大丈夫です。私がそばにいます」
その手は温かくて、澪の震えは少しずつ収まっていく。
「……ありがとうございます」
「澪さんが怖がるのは……見ていられません」
朧の声は、雨よりも静かで優しかった。
しかし次の雷鳴は、さっきよりも大きかった。
──ごろごろごろっ!!
「っ……!」
澪が反射的に目を閉じた瞬間、朧の腕がそっと肩を抱いた。
「……っ、朧さん……?」
「怖いなら……隠れていてください」
「か、隠れるって……」
「ここに、です」
朧は澪の頭を胸元へと導いた。
雨音と鼓動が混ざり合い、澪の頬が熱くなる。
「お、朧さん……近いです……」
「離れたほうがよろしいですか」
「……いえ。
このままで……大丈夫です」
朧の腕に力がこもる。
「……よかった」
その声は、雨に溶けるほど優しかった。
しばらくして、雷は遠ざかり、雨だけが静かに降り続けた。
澪はそっと顔を上げる。
「朧さん……さっきは……ありがとうございました」
「いえ。
あなたが怖がるのは……私も嫌ですから」
「……朧さんは、どうして……そんなに優しくしてくださるのですか」
朧は少しだけ目を伏せた。
そして、澪が再び口を開く。
「あの……朧さん、本当に私でよかったのでしょうか
私が”選ばれた人”とはいえ……。
ご迷惑をおかけしていませんか……?」
「迷惑なんて……!
……理由を言えば、あなたを困らせるかもしれません」
「……困りませんよ…?
……聞かせてください」
雨音が、ふたりを包む。
朧はゆっくりと澪を見つめた。
「……私は、あなたを……
大切に思っています。」
「……っ」
「”仮”の花嫁だからではありません
あなたが……澪さんだからです」
澪の胸が、強く跳ねた。
(……朧さん……)
雨の夜。
二人の距離は、もう”仮”では説明できないほど近づいていた──。