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1話 いつもの出勤路
朝の改札は、
いつも同じ音を立てて開く。
薄手のジャケットに、
少し擦れたリュック。
肩ひもは右だけ柔らかくなっていて、
歩くたびに身体に沿う。
髪は寝ぐせを手で押さえただけで、
前髪がわずかに視界にかかる。
鏡を見る時間は取らなかった。
駅までの道は、
覚えているはずの曲がり角を、
身体が勝手に選ぶ。
舗装の継ぎ目、
自動販売機の位置、
看板の高さ。
全部、昨日と同じ。
それなのに、
歩数が一つ多い。
信号を渡る前に、
理由もなく立ち止まり、
靴のつま先を見る。
かかとは少し削れていて、
そこだけ音が違う。
電車は定刻。
座席の硬さも、
つり革の位置も変わらない。
窓に映る顔は、
少し疲れていて、
それだけだった。
会社に着くと、
机は元の場所にあり、
端末もすぐ起動する。
朝の挨拶は交わされ、
誰も何も言わない。
昼休み、
いつもの店に入る。
席に座るまでが、
ほんの一歩だけ長い。
気のせいだと思い、
水を飲む。
午後も、
特別なことは起きない。
帰り道、
同じ改札を抜け、
同じ道を歩く。
今度は、
歩数は合っていた。
いつもの通勤路。
何も変わらない。
そう思ったまま、
家に着く。
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