テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
恵
「…………え?」
「奏? どういう事?」
美花と奈美が瞳を丸くしながら、奏を凝視した。
「会ったのは、美花が、まだお義兄さんと知り合う以前の話ね。一回目に見たのは、モノレールの立川南駅のすぐ近く。私が家に向かって歩いている時。二回目は、怜さんと南町田のアウトレットモールに行った時……」
「え!? そんな偶然ってあるの!?」
奈美がアーモンドアイを見開き、忙しなく瞬きしている。
「私もビックリしたよ。それに、怜さんは……お義兄さんを見て…………すごい形相してたんだよね」
「え? 何で葉山さんが……そんな表情をするの?」
奈美が、ワケ分からない、と言いたげに不思議そうな面差しを奏に向け、美花は、奏の話の続きが気になって仕方がない。
『話が長くなるけど』と前置きした奏が、困惑しつつも言葉を繋げていった。
「怜さん、私と出会う前に、結婚を考えてた彼女がいたんだよね。けど、お義兄さんが…………怜さんの彼女を…………寝取ったんだよ……」
「……!?」
「!!」
美花と奈美は、互いに目を見開きながら絶句した。
「怜さんと別れた彼女は、お義兄さんと恋人同士になり、婚約までこぎつけた。私、ラウンジピアニストの仕事で、ハヤマの創立五十周年記念パーティに行ったんだけど、その時、お義兄さんと彼女の婚約発表までしていたからね」
二人が固唾を飲んだまま、奏の話に耳を澄ませているけど、美花は虚しそうな、悲壮に満ちたような、複雑な面差しを覗かせる。
「創業パーティから一ヶ月くらい後、私が家に帰る時、立川南駅の近くを歩いてたら、後ろから車が走ってきて、お義兄さんが車から降りてきたのね。そしたら、婚約者とは違う女性が助手席から出てきて……」
話をしている奏に、美花はチラリと目配せされる。
「二人が…………キスしてるのを見ちゃったんだよね……」
キス、という言葉に、美花の身体が小さく震えると同時に、心臓がキューッと縮むような感覚が襲い掛かってきた。
「その後、怜さんと南町田のアウトレットに行った時、お義兄さんが、また同じ女の人と一緒にいてさ。その状況を見た怜さんが、静かに怒りを燃やしてたんだよ。『俺の恋人を寝取った上に、婚約までしているのに、他の女と浮気しているのは許せない』って」
奏の話を聞きながら、美花は、以前、母の店で偶然にも圭と怜が居合わせた時、どこか険悪な雰囲気だったのを思い出す。
(圭ちゃんの元カノが……圭ちゃんの事を、婚約者がいても浮気する男って言ってたけど…………その婚約者が……れいチェルの元恋人だったなんて……)
美花の背中に冷たい何かが迸り、ゾクリと泡立っていった。
コメント
1件
あらためて見ると、このエピソード、めっちゃ重い情報が一気に来たね…。奏が目撃したキスの場面とか、怜さんの「静かに怒りを燃やしてた」って表現がすごく生々しくて、読んでてこっちまで息詰まる感じがしたわ。美花が「圭ちゃんの元カノが…」って回想するところで背中に冷たいものが走る描写、めちゃくちゃ共感した。これからどうなるんだろう、続きが気になる🔥