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#勧善懲悪
#勧善懲悪
翌朝、ズジのまとめた聞き取り記録をもとに、サペたちは商店街の裏口へ向かった。テオハリが、相談内容を別の担当へ渡す現場を押さえられるかもしれないと分かったからだ。
裏通りは狭く、店の室外機の音が低く唸っていた。積まれた段ボールの陰に身を寄せ、スレンが先に角をのぞく。
「いる」
小声が返る。
テオハリは今日も見事なくらい感じよく笑っていた。年配の男性の肩へ手を添え、安心させるふりで紙袋を受け取っている。中身はたぶん、相談票か、誰かの秘密だ。
サペの奥歯がきしんだ。
合図と同時に、全員が動く。
「その紙袋、見せてください」
マイナが前へ出る。
「地域相談の記録なら、扱いに規定が――」
「急に何です?」
テオハリは笑顔を崩さない。
「私はただ、皆さんのお力に」
「人の弱みで?」
エリアが遮る。
ズジが手帳を開き、相談者の証言を読み上げる。スレンが別人のふりで受け取った名刺も出した。リボルは通路の逃げ道を塞ぎ、ピットマンが後ろから回る。
さすがのテオハリも、目元だけは笑わなくなった。
「誤解ですよ」
「じゃあ紙袋を」
サペが手を伸ばす。
その瞬間だった。
横の細い路地から、黒い服の青年が滑り込むように現れた。動きが速い。テオハリの手から紙袋を奪うと、そのまま壁を蹴って身を翻す。
「待て!」
ピットマンが叫ぶ。
青年は振り返りもしない。けれど、逃げる直前、一瞬だけ横顔が見えた。
高い鼻筋。短く切った髪。昔より少し鋭くなった目。
サペの足が止まる。
息の仕方を忘れたみたいに、胸が詰まった。
その顔を、見間違えるはずがない。
祖父の工房で、兄弟みたいに育った相手。
中学の卒業式の日を最後に、何も言わず消えた相手。
ンドレスだった。
黒服の背中は、路地の先で朝の光にまぎれて消えた。
エリアがはっとしてサペを見る。
「……サペ」
サペは返事をしなかった。
できなかった。
拾った黒い名刺の先にいたのが、よりにもよって、あいつだなんて。