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#創作
ゆずき
192
#恋愛
もな
302
38
あらすじ
翠球。
そこでは、両生類に近い祖先から独自の進化を遂げた人類、ホモ・マルティスが暮らしている。
彼らの身体には、人格や思考を担う主脳とは別に、腕や脚などの動きを支える副脳がある。
慣れた作業なら身体へ任せ、その間に別のことを考えられる。
危険が迫れば、副脳が主脳より先に反応することもある。
失った指や腕は時間をかけて再生し、再生後は副脳との再同期訓練を行う。
皮膚は模様や凹凸を自在に変えられ、ファッションや感情表現にも使われる。
北の方向を感覚で捉え、失った歯は継生歯として再び成長する。
聞いた音をかなり正確に再現できることから、翠球ではオノマトペも独自の発達を遂げた。
物音だけではなく、喜び、失敗、気まずさ、疑問といった気持ちまで短い音で伝え、文字でのやり取りにも使われている。
けれど、ホモ・マルティスにとって、これらは特殊能力ではない。
すべてが日常にある、ごく普通の身体の仕組みだった。
そして、翠球で独特なのは人類だけではない。
翠球には一般的な虫がほとんど存在しない。
鳥も存在しない。
犬や猫も存在しない。
恐竜も確認されていない。
その代わり、この星で独自に進化してきた動物群が、それぞれの役割を担いながら生態系を形成している。
動物種そのものも、ヒューマン作品に描かれる世界と比べて約四割程度。
新しい環境へ次々と生活圏を広げるより、慣れた環境や食べ物を保とうとする動物が多く、大規模な枝分かれが起こりにくかった。
一般的な虫がほとんどいない森では、クモに近い節足動物群が大きく多様化し、落ち葉や死骸の分解、土づくり、種子の運搬、植物の繁殖補助などを担っている。
一方、環境の変化へ積極的に暮らし方を変える動物が少ないことは、人による家畜化とも深く結びついていた。
安定した餌。
水。
気温。
安全な繁殖環境。
何百、何千世代という長い選択の末、翠球では完全家畜化が大きく発達している。
ガビアルから改良され、食肉へ特化したレグホン。
同じ祖先から採卵方向へ分かれ、やがて別種となった卵コーチン。
一トンを超えることもある巨大なダイトン。
肉と乳をもたらす三毛牛。
魚の多くは養殖され、主食となる豆類も高度に管理された農地で育てられている。
中にはホモ・マルティスと言葉を交わし、家族や好き嫌い、昨日の出来事や明日の予定まで話せる水生動物もいる。
意味のある会話が成立するほど知性を持つ動物を食べることは、翠球では共食いに近い感覚で受け止められている。
そんな翠球は、生き物に関する技術が非常に発達している一方、機械文明は意外なほど素朴だった。
街には石油系燃料の車が走り、病院では厚みのある大型コンピューターが現役で動く。
ロボットや完全自動化も珍しい。
身体そのものが多くの仕事を担えるホモ・マルティスにとって、あらゆる作業を機械へ任せる必要性はそれほど大きくなかったのだ。
そして、そんな翠球で世界的な人気を誇る創作ジャンルがある。
「ヒューマン作品」。
副脳を持たない。
失った身体を高度に再生できない。
皮膚模様を変えられない。
北を身体で感じられない。
継生歯も持たない。
音を自在に再現する能力もない。
その代わり、身体に足りないものを機械によって補い、薄型携帯端末、高性能コンピューター、高度なロボットや自動設備を発達させた架空の人類。
それがヒューマンだった。
しかもヒューマン作品の世界には、犬、猫、鳥、サル、恐竜、大量の虫、鶏、豚、牛をはじめ、翠球では考えられないほど多くの動物が登場する。
存在しない鳥を調べる子ども。
ヒューマンとサルが本当に近い系統だという設定に驚く学生。
鳥を完全家畜化した「鶏」という生物に夢中になる研究者。
架空の鶏料理をレグホンで再現しようとする料理人。
あまりにも大量の動物が共存するヒューマン世界について、「こんな生態系が本当に成立するのか」と真剣に考察するファンたち。
翠球の人々にとって、ヒューマンは大胆な創作から生まれた、とても奇妙な人類だった。
けれど。
もしヒューマンが本当に存在していたなら。
副脳を持ち、身体を再生し、皮膚模様を変え、歯を何度も育て、北を感じ、音を感情表現として操り、独自の動物たちを何千世代もかけて完全家畜化してきたホモ・マルティスを見て、何を思うのだろう。
翠球では、それが普通。
ヒューマンの世界でも、きっと彼らの暮らしが普通。
身体、生態系、食文化、文明、娯楽。
さまざまな日常を通して、「普通」は見る側によってまったく違って見えることを描く、一話完結型の異生態SF。
コメント
1件
おお、これめっちゃ面白い設定だわ……!「ホモ・マルティス」の身体特性とか生態系の設計がめちゃくちゃ丁寧で、読んでるだけで翠球の空気が感じられる。特に「ヒューマン作品」っていう逆転の発想、つまりこっちの世界が“異世界”扱いされる構造が痺れる。副脳で作業を任せられるとか、皮膚模様を変えるファッションとか、一つひとつの設定に「なぜそうなったか」が透けて見えるのが好き。物語が始まる前からもう世界に引き込まれたわ。続きが楽しみ!