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怜に無様な姿を見せてしまった日から約二週間後の土曜日。
この日の昼間、奏は親友、本橋奈美と会う事になり、新居へ招待された。
結婚してから彼女に会うのは初めての事だ。
デパ地下で手土産を購入した後、奏は立川駅の改札へと向かう。
その時。
奏から少し離れた所に、見覚えのある男性がいた。
体育会系の爽やかイケメンは、つい半月近く前に、ご飯を食べに行った親友の上司だ。
(あれ、谷岡さんだ……)
さり気なく視線をやると、谷岡は女連れで駅周辺を歩き、女性は谷岡の腕に手を添えている。
(ほら。これだから男は——)
奏は大きくため息を吐くと、ICカードを翳して改札の中へ入っていった。
その場で、谷岡のアプリIDを消去する事も考えたが、ひとまず放置する事にする。
恐らく谷岡からの連絡は、もうないだろう。
中央線の東京行きに乗り、二つ先の西国分寺で下車する。
教えてもらった住所を頼りに歩いて行くと、徒歩十分程度で新居に着いた。
初めて来た親友の自宅は、モダンな雰囲気の二階建ての一軒家。
駐車場は車が二台停められるようで、白のSUV車が一台駐車してあり、表札には『Motohashi』とローマ字表記されている。
奏は、チャイムを鳴らし、親友が出てくるのを待った。
「奏! いらっしゃい!」
「奈美。結婚式以来だね!」
「どうぞ、上がって!」
「お邪魔します。っていうか、家、買ったんだね」
「最初は、ここから近所の豪さんが住んでいた賃貸マンションで同棲してたんだけど、結婚の話が具体的になった時に、先の事も考えて二人で話し合って、購入を決めたって感じかな」
奈美に案内されてリビングに行く。
ドアを開けると、奈美の夫、豪がソファーから立ち上がり、穏やかな笑みを湛えて奏を出迎えてくれた。
「音羽さん、ようこそいらっしゃいました」
「こんにちは。お邪魔します。あ、奈美。これお土産ね」
先ほどデパ地下で購入した有名店のタルトを手渡し、奈美はアーモンドアイを細めた。
「ありがとう。後でみんなで食べようね」
奏はリビングを見回すと、大きなテレビにソファーセット、アップライトピアノ、横には楽譜が収納されている本棚がある。
所々に結婚式の時の写真や、恋人時代だった時のツーショット写真が飾られ、この夫婦の仲睦まじい様子が見て取れた。
「奈美、ピアノは実家から運んだの?」
「うん。披露宴で奏と連弾したでしょ? あれからまた弾きたくなって、こっちに持ってきちゃった。時々豪さんに、何か弾いてって言われるの」
奈美が肩を竦めてウィンクする。
「音羽さん、どうぞ座って下さい」
豪が奏を促すと、失礼します、と言いながらソファーに腰掛けた。
キッチンから紅茶の良い香りが漂い、奈美がお茶菓子と一緒に紅茶をトレイに乗せて運んできた。
「どうぞ」
「ありがとう。いただきます」
温かい紅茶を口にしながら、奏はホッとひと息ついた。