(しかし、この夫婦…………ラブラブ過ぎでしょ……)
親友の新居にお邪魔している奏は、てっきり奈美と二人で女子会トークをするものだと思っていたが、そのまましれっと妻の隣にいる夫の豪。
奏は思わず、苦笑いとも取れる笑みを見せた。
「旦那さん、本当に奈美の事が大好きなんですね」
「もちろん、大好きですよ。可愛いし、俺の事を常に優先して考えてくれるし、何せ、俺が奈美に一目惚れしましたからね」
妻の親友とはいえ、平然と他人にそんな事を言ってのける豪。
(おお……この前の食事の時、谷岡さんから聞いた通りだ……)
谷岡といえば、ここへ来る前、立川駅で女連れで歩いていた事を、不意に奏は思い出す。
それに、先々週のハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの創業パーティで演奏の仕事をした際、怜と再会した。
仕事の後に、ホテルのパウダールームへ行こうとして、偶然見かけた怜と元恋人。
しかも怜の元カノは、現在彼の双子の兄、圭のフィアンセだ。
(結局……男って彼女とかいても、他の女に平気で声を掛けたりするって事だよね……そのいい例が私……)
豪は、横に座っている奈美の指先を絡め、恋人繋ぎしている。
二人から目を逸らすように、奏は、いつしか陰影を纏わせた瞳を窓の外に向けた。
「奏……? どうしたの? 表情が冴えないみたいだけど……何かあった?」
奏を気遣うように、奈美がアーモンドアイの目尻を下げて遠慮がちに声を掛けた。
さすがは親友だ。奏の様子がおかしい事に気付いたらしい。
(どうしよう……谷岡さんと葉山さんの事……打ち明けた方が良いのかな……)
あの二人に出会ったのは、目の前のラブラブ夫婦の結婚式だ。ならば、言った方がいいのかもしれない。
誰にも言えず、自分の中に留めている状態に、奏の心は限界に達しそうだった。
「実はさ……」
谷岡も怜も豪の友人である。奈美と豪から何か話が聞けるかもしれない、と彼女は考え、訥々(とつとつ)と話し始めた。
披露宴の歓談中に、谷岡から声を掛けられ、互いのメッセージアプリのIDを交換した事。
披露宴が終わってから、会場を後にしようとした時、怜に声を掛けられ、少し話をした事。
モノレールの駅へ向かう途中で体調が悪くなり、怜が介抱してくれた後、立川のホテルのカフェラウンジに立ち寄り、お茶をしながら話し、メッセージアプリのIDを交換した事……。
「全く、谷岡のヤツ、連絡先を交換するなら披露宴の後にしろって言ったのに、俺らが中座している間にちゃっかり音羽さんに連絡先を聞いてたのか!」
「別にいいんじゃない? 谷岡さんも以前『俺もそろそろ本気の恋愛がしたい』って豪さんに言ってたんでしょ?」
「そうだけどさ。ってか、一番腹立つのは葉山だよな。アイツ、二次会ドタキャンしたんだぞ? 何で急に二次会に行けなくなったんだって聞いたら、『それは言えねぇな』なんて言いやがってよ。理由は音羽さんに声を掛けるためだったのか。二次会のキャンセル料、まだアイツから徴収してねぇから、割増料金で請求しておかねぇと……」
「っていうか、葉山さんっていうのは?」
「ああ、葉山怜は俺の高校時代の同級生。あれも結構なイケメンなんだよなぁ」
おっとりしている奈美に対して、不貞腐れたような豪。
対照的な二人の反応に、奏は思わずクスリと笑った。
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