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#伝奇
#モキュメンタリーホラー
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「では第二の試練です」
頭をくらくらさせ始めたうちに向かって、またライセサマが言う。
「あなたが流したその血で、ご自身の顔を赤く染めてください」
ほとんど無感動に、機械的にうちはその命令に従っていた。
ベチャベチャと湿った音を立てながら、自分の血を自分の顔に塗り込んでゆく。
たちまち目と鼻が塞がれ、呼吸をすることすら苦しくなってゆく。
酷い話や、とうちは思った。
神様の頼み事を聞き入れ、休日を返上してまでこんな山の中まで来たというのに、リョウは頭を食いちぎられ、うちは自分の血で窒息死しそうになっている。
だけど、こんなものなのかもしれない。
思えばうちの人生は物心つく前からモウジャだの、怪異だのに食い物にされ続けていた。
最近は曲がりなりにも普通の生活を送れるようになっていたけれど――、自分でも何かできることを、お父さんや塚森家の親戚のみんなが喜んでくれるようなことをしようとした途端、これだ。
こんなことならうちはもう、この世からいなくなった方がいいのかもしれへん……。
大きく息を吐き、意識の薄れゆくままにうちが身を任そうとした時だった。
バタバタと両手両足を忙しなく動かして、四つん這いになったライセサマがうちに向かって近づいて来た。
まるで飢えた犬が飼い主の「待て」を聞くことができず、餌に飛びつくような勢いでそのまま、うちの身体を床に押し倒す。
そして、鉤爪の生えた両手でうちの胸元を強い力で押さえつけたまま――、魚そのものの口をグパッと大きく開く。
そこから飛び出してきたのは、腐肉のように紫色に腫れ上がった舌だった。
主であるライセサマの胸元までダランと垂れ下がったそれは、まるでそれ自体が一つの醜悪な生き物であるかのようにビクビクと蠢動していた。
その舌が伸び、ベロンとうちの顔を舐めた。
おろし金をグイッと押し付けられ、そのまますり下ろされたかのような感覚が顔全体に走る。
思わず両手を当てるが――、触れた先からうちの顔の皮はグズグズと溶けて崩れ、そのままベロンと剥がれ落ちていた。
剥き出しになった神経が空気に触れ、無数の針を突き立てられたかのような激痛。
痛い!
痛い!
痛い!
うちは絶叫する。
絶叫しなければ苦痛に意識が塗りつぶされて頭がおかしくなる。
そう思った。
そして、絶叫しながらうちは思い出す。
取り出したばかりの、まだ熱い湯気の立つうちの内臓を片手ににぎりしめ吐き気を覚えるほど軽率な笑いを浮かべたあの男を。
他人でも自分でもいい。その人間の本性、本質を知りたければ苦痛を与えてごらん。
ここで大事なのは、苦痛とは肉体だけではなく精神に深く刻み込まれるような根源的な刺激だということだ。
刺激とは苦痛であり、快楽でもある。
それを受け入れた時こそ、その者は己だけの真実に出会えるのだ。
だからキミカよ、愛しい娘よ。――苦痛を恐れるな。
ライセサマの舌が蠢き、また一枚、うちの顔の皮を剥いだ。
……ふざけんな。
思考の中にざらついたノイズが生じた。
うちやお母さんにあんなことしといて、何が娘や。
こっちはお前のことなんかとっくに忘れて楽しく暮らしてんねん。
今さら出て来るな。
思い出の中にだって、影すら見せるな。
もし、万が一にもうちの前に姿を見せたりしたら――今度こそ、殺したる。