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湊は目を覆った。
賢治の指が女の頬をそっと撫で、触れるたびに熱を帯びる。女の瞳は、欲望と罪悪感の狭間で揺れながらも、賢治の視線に絡めとられていた。車の革張りのシートが、二人を閉じ込めるように軋む。
「こんな場所で…いいの?」
昼下がりの廃墟となった高齢者施設の駐車場。女の声は震え、囁くように漏れた。賢治は答えず、代わりに彼女の唇に自分の唇を重ねる。柔らかく、熱い吐息が交錯し、車内の空気は一瞬にして濃密になる。
女の指が賢治のシャツの裾を握り、ためらいがちに引き寄せる。彼女の心臓の鼓動が、賢治の胸に伝わるほど近く、激しく響き合っていた。賢治の手は女の背中を滑り、制服のブラウスの薄い布地をたどる。彼女の体は、触れられるたびに微かに震え、まるで禁断の果実を味わうように、賢治の指先がその輪郭をなぞる。
アルファードの後部座席の狭い空間は、二人の熱で息苦しく、窓ガラスには曇りが広がり始めた。外の世界は遠く、ただ二人の吐息と、衣服が擦れる微かな音だけが響く。女の唇が賢治の首筋に触れ、湿った熱が彼の肌を焦がす。賢治の息が荒くなり、彼女の髪を握る手に力がこもる。
「好きだよ…」
賢治の声は低く、抑えきれぬ欲を帯びていた。彼女は目を閉じ、賢治の声に身を委ねる。彼女の指が賢治のベルトに伸び、ためらいを振り切るように、ゆっくりと外す。金属の音が車内に響き、まるで二人の罪を刻む音のようだった。シートが再び軋み、二人の体が絡み合う。
女の肌は火照り、賢治の手に導かれるままに、彼女の体は彼に寄り添う。賢治の唇が彼女の肩を滑り、鎖骨をたどるたびに、女の吐息は甘く、切なく変化する。車内の空間は狭く、動きは制限されるが、それが逆に二人の距離を縮め、互いの存在をより強く感じさせた。
女の髪が乱れ、シートに広がる。彼女の指が賢治の背中に爪を立て、刹那の痛みが彼の欲望をさらに煽る。時間は止まったかのように流れ、車内の熱気は頂点に達する。二人の動きは、まるで互いを求め合う獣のように激しい。スプリングが激しく強く軋む。女の声が、抑えきれずに漏れるたびに、賢治は彼女を強く抱きしめる。やがて、動きが緩やかになり、二人は息を整える。
湊 は賢治が乗るアルファードの車載カメラからSDカードを抜き取り、録画録音されたデータを逐一自身のパソコンに保存していた。その作業を繰り返したところ、曜日も時間帯も不規則だが、賢治は一人の女性を車内に招き入れ性行為に耽ふけっている事が判明した。
それは淫らで到底、菜月には見せられないものだった。義理の兄が出演するアダルトビデオを見る嫌悪感に 湊 は吐き気を催した。
(…これが如月倫子か、想像していた雰囲気と全然違うな)
まだあどけなさが残る、年齢は20代前半。この女が菜月のマンションまで押し掛けて来る様には見えなかった。
(いや、不倫をする時点で可笑しいのだから思い込みは禁物だな)
そしてこの2週間、菜月にLINEを送ったが返信は一度もなかった。綾野の家にも来ない。これは何かがあったとしか考えられなかった。答えはひとつ。
(賢治さんだ)
賢治が菜月の行動を制限しているに違いなかった。なんの為に?答えはひとつ、菜月を監視下に置きたい、なぜなら不倫の発覚を恐れているからだろう。それにしてもLINEの返信ひとつも出来ない状況にあるのだろうか。そこで竹村誠一の言葉が頭に浮かんだ。 ドメスティックバイオレンスやモラルハラスメントの予兆 菜月がそれらを受けている事は十分考えられた。早くあの場所グラン御影から救い出さなければならない。
そこで 湊 は ゆき に1枚のSDカードを託した。そしてボイスレコーダーの回収、それで終わるはずだった。ところが思いがけない事実が判明した。 「この女性は、誰?」 賢治には如月倫子の他に愛人がいた。菜月を蔑ないがしろにするにも程がある。
(賢治さん、あんた一体何やってんだ!)
そして湊 は賢治とその女性の逢瀬をカレンダーに記入した。それは金、土、日曜以外の平日、時刻は14:00 から16:00、信じられない事に勤務時間内に行われていた。
そして相手の女性の制服には見覚えがあった。 (四島しじま工業の職員だ) それは賢治の実家である四島工業株式会社の女性社員の制服だった。もしかしたら賢治は四島工業株式会社在籍時からこの女性と繋がっていたのかもしれない。そうなれば、菜月は結婚前から賢治に裏切られていた事になる。 湊 の腑はらわたは煮え繰り返った。