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空気嫁(カタクリ子DX)などの異物が迷い込んでくる異世界で、不便だけど、なぜか快適な生活を満喫していた。
スライム畑とミノタウロス放し飼い牧場の広がる、緑豊かな国『ズリオチール王国』にレンタロウはいる。
紅い太陽が顔を出す。
翠・藍の太陽が色を変えながら後を追った。
地平線の向こう側に三角形を作ると、すべての太陽がオレンジ色へと変わる。
木に実った色鮮やかなスライムの顔面が陽光を浴びてニコリと輝いた。
滅多に人の通らない小道に出て大きく伸びをする。
そわりと吹いた風に運ばれるスライムの香りをかぎながら、レンタロウは店の看板を見上げた。
『アーマー&ヘルメット』
ハミデール王国から追放されたレンタロウは、ワイファイの電波など飛んでこない辺境の村『ワイファイ・ツカエマース』でカフェを開いた。
ネコ科の動物たちが接客をする“ネコ科フェ”だ。
人命救助+誤召喚の賠償金(およそ500万ユルドル)は、使い切っていた。
国民的な駄菓子(ゆるい棒)を5億本買って終わり。
評判通り、1本でお腹を壊したので、残りを施設などに寄付したのだった。
国王からもらった鈍器のようなもの300本。
使い道がなかったので、オークションに出品。
ハミデールの王女『ドコミ』と共謀した結果、500万ユルドルで落札。
落札したのは、ハミデール王だ。
へんなグッズの売却代金を、店の開業資金にあてたのだ。
物件探しから始まり、ゾウが踏んでも壊れそうにないテーブルとネコタワーの製作(DIY)。
特に苦労したのは、うちで働くスタッフ(ネコ科の動物)集めだった。
あるときはジャングルに潜入し、またあるときは砂漠に赴き、スタッフのスカウトに明け暮れる日々。
結局、元の世界(日本)に戻る方法を見つけられなかった。
レンタロウが異世界にやってきて3ヶ月。
ようやくカフェのオープンまで漕ぎつけたのだった。
ふと、腕時計に視線を落とす。
開店5分前か。
レンタロウは、もう一度店内を見回った。
当座の運転資金を確保するべく内装は控えめ。
カウンター席が4つにテーブルが3台。
テーブルを囲うようにソファーを配置。
調度品のたぐいは置かれていない。
初日の先発メンバーは、チーター・ライオン・トラの3頭。
5頭が出勤する予定だったが、サーベルタイガーは、トラがカブってんじゃんと言って出勤拒否。
ネコ科の動物は気まぐれなのだ。
おっと、開店の時間か。
本日来店するのは女騎士とサキュバス。
正式オープン前に、レンタロウが招待したのだ。
女騎士の名は『アデライド・ショウユ・トッテクレメンス』。
以前、草原で一緒に戦ったちょっとアレ? な人だ。
サキュバスの名は知らない。
女騎士の知り合いとしか聞いていない。
「みんなよろしく!」
スタッフに声をかけ、厨房でグラスを磨きながらお客さんの到着を待つ――。
鉄扉の開く重々しい音で、レンタロウが顔を上げる。
パールピンクの甲冑に身を包んだ騎士と、サキュバスを思わず2度見する。
女騎士は兜をかぶったままで来たらしい。
サキュバスは、ほぼ裸だ。
大事な部分に白いバンソウコウを貼るだけという世の中のおじさんを瞬殺しそうな、かなり攻めの装い。
ファンシーな女騎士と、あられもないサキュバスの姿を見て、どこから突っ込もうか考えながら、レンタロウは小走りで入り口に向かう。
身だしなみを整え、ふたりを迎え入れた。
「アーマー&ヘルメットへようこそ!」
「招待感謝する」
兜をかぶっているせいで籠った声だが、まぎれもなく女性だ。
鎧の形状でもすぐわかる。胸元が大きくふくらみ緩やかな曲線を描く。
やたら短い鎧から黒いガーターベルトを覗かせる。
「邪魔すっぞ。お前が店員か?」
続いて入ってきた15歳くらいのサキュバス。
うす紫色の瞳を輝かせ、畳にぶっ刺さった空気嫁の『カタクリ子DX』に話かける。
「お前の顔面偏差値は80だな」
レンタロウの美的センスとは真逆らしいサキュバス。
カタクリ子の頭を撫でながら、渋めの煎茶を淹れるのに適した温度みたいな数値をはじき出した。
あ……女子の「かわいい~」を信じちゃいけないってアレだわ……。
そんなことより、サキュバスってこんな感じだっけ?
レンタロウが想像していた姿とは少し違った。
うす紫色の髪をツインテールにした頭には角がない。
焼きたての食パンのような褐色のプルンとした健康的な肌。
水やイヤラシイ視線を、簡単に弾きそうだ。
肩甲骨あたりから、ふわふわした白い翼が生えている。
腰から伸びた長い尾でテーブルなどをつついて歩く。
「悪いが先導してくれるか?」
水中散歩をするように、両手で周囲を確認しながら狭い店内を慎重に進んでいた女騎士。突然、歩をとめた。
「前がよく見えん。特に真下がな!」
カブト脱げや!
「奥の席でいいですか? それとも、店から退場しますか?」
女騎士の手をとり、まったく障害物のない通路を進む。
狭い店だ。10歩ほどで定位置に到着。
スタッフの待機室や厨房のほうが広いかもしれない。
「この痴女は座り心地がわりいな!」
サキュバスは、ジョリジョリと天井に頭を擦りながら空中を移動する。
なれた様子で女騎士の肩に|跨《またが》った。
「コラ! 私は椅子ではないぞ!」
「痴女は否定しないんですね……」
「紹介しておこう。こいつは『メリッサ』。メリッサ・エクストラバージンオイルだ。少しポワンとしたやつだが仲良くしてやってくれ」
「よろしくだぞ!」
サキュバスのメリッサがニコリと笑うと、半開きの口から白い八重歯を覗かせた。
ずっと眺めていたいけど、このふたりを見ていると|焼死する《萌え死ぬ》かもしれない……。
レンタロウは、速攻で営業モードに切り替えた。
「こちらがメニューです。お決まりになったら呼んでください」
「メリッサはこれにすっぞ」
即決だな、おい。
というか、メニューじゃないよ。
「メニューに挟まって死んでいる虫です」
「じゃあ、これにすっぞ」
「ページ番号なんで……」
「んじゃ、これ」
メリッサは商品ではないものを次々と指定する。
だからね……。
「こらメリッサ。店主が困っているだろ」
困り顔をしていたレンタロウに向けて、女騎士という港から助け船が出港した。
「騎士さんもお決まりでしたら、どうぞ」
「そうだな。これをもらおうか」
だからね……潰れた虫だっての……。
女騎士から出された助け船は、すぐに沈没した。
「悪いな。メニューが良く見えなくてな!」
いい加減、カブト脱げや!
「おい店長。ここは“ネコ科フェ”だろ? イヌっころはいねえのか?」
ネコ科フェにイヌなんかいねえよ!
なんだろう……天才の残りカスみたいなサキュバス娘は……。
なにかの搾りカス系のメリッサが、不思議そうな顔でキョロキョロと狭い店内を見回している。
「ネコ科の動物ならチーターがいますよ。ほら、そこに」
「どこにいるんだ?」
間抜けな顔をしたメリッサが、天井を見上げる。
「メリッサさんのスネをかじっているそれですよ……」
「おう! おまえが店長か!」
「それはチーターで、僕が店長です……」
メリッサというサキュバスはポンコツ系なのだろう。
美少女だけど、頭頂部からアホ毛が生えてるし……。