樋口の投資講座が終わる頃リビングに新しい客が入って来た。美和が挨拶をしている声が聞こえる。
健吾と英人が美和のいる方を振り向くとそこには原口と麗奈がいた。
美和との挨拶を終えた原口はソファーでワインを飲んでいる樋口の元へ歩いて行く。挨拶をするのだろう。
一方麗奈はキョロキョロと辺りを見回し誰かを探しているようだ。そして健吾を見つけるとすぐにこちらへ向かって来る。
それに気づいた英人が小声で言った。
「健吾ちゃんロックオンされちゃってるぞ」
「勘弁してくれよ」
健吾が参ったなという顔をしていると麗奈が満面の笑みを浮かべてやって来た。
麗奈は今日もかなり露出度の高いセクシーなワンピースを着ている。
全身からは有名ブランドの香水が漂っている。つけ過ぎなのではと思う強い香りに隣にいた英人は思わず顔をしかめていた。
「健吾さん♡お久しぶりです。沖縄依頼ですね。またお会い出来て嬉しいです♡」
麗奈は熱のこもった瞳で健吾を見つめるとしきりに目をぱちぱちとさせている。麗奈がまばたきをする度にマスカラを厚塗りされた重たそうなまつ毛がかなりしんどそうだ。
横にいた英人は苦笑いを浮かべながらそーっとその場から逃げ出した。
『おい、行くなよ』
と無言で訴える健吾の視線を無視して英人は妻の元に行ってしまった。
(ったく…….)
邪魔者がいなくなると麗奈の表情は輝きを増しご機嫌な様子だ。麗奈は健吾がこのパーティーに一人で参加していると思ったようだ。
そこへまた新たな客が到着した。今度は女性三人組だ。
樋口のパーティーの常連は妻か恋人を伴いカップルで参加する者がほとんどだ。パートナーがいない若手投資家は男同士で来る事もあるが大抵は男女のカップルで参加する事が多い。
今入ってきたような女性三人組は若手投資家が飲み会の席などで誘ったケースがほとんどだ。酔った勢いで気が大きくなり一流投資家気取りでついパーティーの事を話してしまい女性達はそこを虎視眈々と狙ってくる。
つまり彼女達のような女性だけのグループは投資家狙いで来ている。健吾はいつもそういった女性達の標的にされていた。
健吾が今入って来た三人を見るとその中に見覚えのある顔があった。その女性は優菜だった。
優菜は一見控えめで大人しそうな印象だが7月のパーティーではしつこく健吾に付きまとって来た。
帰り際に健吾を捕まえてなんとか健吾と一緒に帰ろうと画策してきた。しかし健吾は一瞬の隙を狙い優菜を振り切ると逃げるように家に帰った。だから健吾はもう二度と優菜とは関わりたくなかった。
優菜は健吾を見つけると途端に瞳をキラキラと輝かせて微笑みかける。しかし健吾の隣に麗奈がいるのに気付きその瞳は一気に嫉妬の炎で燃え上がった。
さすがの優菜も健吾にしなだれかかる麗奈を追い払う事は不可能だと思ったのか、悔しそうな表情を浮かべたまま一緒に来ていた参加者と談笑を始める。
麗奈はそんな優菜に対し勝ち誇ったような笑みを浮かべると、更に健吾に近づくと大きく開いた胸の谷間を見せつけるようにしながら健吾の腕に押し付ける。
(勘弁してくれ……)
健吾が麗奈の腕を振り切りその場から逃げようとした瞬間、優菜が二人の方へツカツカと歩いて来るのが見えた。
優菜は二人の傍まで来ると健吾と麗奈の間に割って入った。
「ちょっと、あなた! パーティーの場でそれは品位に欠けるんじゃありませんこと?」
急に邪魔をされた麗奈は優菜をキッと睨みつける。
「あら? それはどういう意味?」
「ここは投資家の人達が交流をする場なの。色気で男をたぶらかす場所じゃないって事!」
「あら勘違いしているのはどっち? あなたの方こそ私達にただ嫉妬しているだけじゃないの? 品位に欠けるのはどっちかしら」
麗奈は笑みを浮かべて勝ち誇ったように言った。
「あら、あなた不倫をしているでしょう? それなのに健吾さんにも色目を使うなんてそれこそ下品そのものじゃない!」
「誰が不倫ですって? 言いがかりもいい加減にして!」
「あーら、そんな事言い切っちゃっていいのー? あなたの呟きサイトにしっかりと不倫の証拠が残っているじゃない! 沖縄旅行は原口さんと行ったんでしょう?」
「そ、そんな証拠がどこにあるのよっ」
「みんな口には出さないけれどあなた達二人の関係はもみんな知ってるわ」
そこで慌てて美和が二人の間に割って入った。
「ちょ、ちょっと、楽しいパーティーの席で喧嘩はやめてちょうだい」
「すみません、でもこの女不倫しているのにいけしゃあしゃあとここでも男に色目を使ってるんで…」
「私不倫なんてしていません。とんでもない誤解だわ」
二人が言い争いをやめようとしないので美和は困り果てている。
その時美和の後ろから樋口がゆっくりと近づいて来た。
「原口君、ちょっと!」
樋口は麗奈と優菜がいる場所に原口を呼んだ。原口は慌てて樋口の傍まで走って来る。
「何でしょうか?」
「うん、なんかね、石垣島在住の友人から聞いたんだが、君、石垣島へは奥さん以外の女性と行ったんだって?」
その言葉に原口はぎょっとする。
「いっ、いえ…その、つまり…….」
「隠してもダメだよ。僕の人脈は結構広くてね、その知人は石垣島でゴルフ場を経営しているんだ。で、そのゴルフ場へ君が奥さん以外の女性を連れて来てずっとイチャイチャしていたって言うんだ。それは本当かな?」
原口は途端に真っ青になる。麗奈も急にバツの悪そうな顔をした。
「そっ、それは、そのっ」
「まあ恋愛は個人の自由って言われたらそれまでなんだが僕のパーティーには不誠実な奴には来て欲しくないんだ。どうしても妻以外の女性と恋愛がしたいっていうんなら離婚してからするのが筋だろう? いい歳をしたオトナが美味しいとこ取りっていうのもどうかと思うぞ。それに本来ならこういった場所には奥さんを連れてくるものなんだ。君が投資家として自由にのびのびと活動出来ているのは一体誰のお陰だと思っている? 子育てや家事、親戚づき合い、その他もろもろの雑用を一手に引き受けてくれる妻がいるからこそ君は好きな事をしていられるんだろう? そんな事も分からん奴は例え投資家として成功をしていても人間的にはダメダメなんだよ。わかるか? わかるなら今すぐ彼女を連れて帰りなさい。二人共もう二度と僕のパーティーには顔を出さないでくれ」
樋口は冷やかな視線で麗奈を一瞥するとくるりと踵を返してソファーへ戻って行った。
原口は呆然と立ち尽くしていた。そして樋口がいなくなると慌てて逃げるように部屋を出て行った。
後に残された麗奈は参加者からの冷ややかな視線を浴びながら言い訳のように言った。
「私は何も悪くないわよっ、向こうからしつこく誘って来たんだから!」
そして麗奈は気分を害したと言わんばかりの表情でツンとしたままその場を後にした。
二人がいなくなった後リビングは一瞬シーンと静まり返った。
その時誰かが手を叩いた。それに続き皆が一斉に拍手を始めた。そして指笛まで鳴り響き皆が笑い声を上げる。
若手投資家の間からは、
「やったな」
「ざまぁだな」
「せいせいした」
という言葉が飛び交い皆が笑顔で顔を見合わせる。
ここにいる若手投資家達のほとんどが、原口のやりたい放題の不倫や麗奈の男漁りにうんざりしていたようだ。
もちろん健吾も笑っていた。原口と麗奈がすごすごと帰っていくのを見てとても爽快な気分だった。
その時健吾の隣にいた優菜がこう言った。
「やっぱり悪い事をすると天罰が下るんですね」
そして急にうるうるした熱っぽい瞳を健吾に向ける。今度は優菜が女豹に変身したようだ。
(おいおい勘弁してくれよ、一難去ってまた一難か?)
擦り寄ってくる優菜から逃げようと健吾が足を一歩踏み出そうとした時理紗子の声が響く。
「ケンちゃん呼んだ?」
理紗子がニコニコしながら健吾の傍へ来た。
(救いの女神が来た)
健吾は心の中で呟くと理紗子の手を取り手を繋いだ。
その瞬間優菜の瞳に激しい憎悪の炎が灯ったのを健吾は見逃さなかった。
しかしそれには気付かないふりをして理紗子に言った。
「あ、うん、外もだいぶ暗くなってきたから夜景でも見に行こうか」
健吾は優菜に軽く会釈をすると理紗子と手を繋いでその場を後にした。
(あの女は一体誰? まさか健吾さんが連れて来た女?)
二人の後ろ姿を見つめる優菜の顔はまるで般若のような恐ろしい形相をしていた。
コメント
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主催者樋口さんの注意で原口&麗奈退散💨💨👋 うるさい女豹が退治できて本当によかった😱‼️ 般若優菜もどうなることかと思ったけど、理沙ちゃんの「ケンちゃーん❣️」で健吾も救われたね✌︎('ω')✌︎💕 感謝感激に愛情表現も絡めて精一杯理沙ちゃんを可愛がってあげて〜〜💝
樋口さん、不倫男&女豹退治 お見事~!!!😎👍️ 邪魔者は退散し、スッキリ最高~~🕺🎶💃✨✨ 二人で仲良く、ゆっくりパーティーを楽しんでね....💕🥂🌃✨
ブラボー👏👏👏いゃ〜スッキリ〜✨2頭の女豹蛇女も退治〜|ョ*¯ ꒳¯) ✧スッキリ気持ちいい〜𓂅 𓈒𓏸𓂃 🌿𓈒𓏸 気を取り直してパーティーを楽しもう〜🍾🥂理紗子ちゃん今晩は少しくらい多めに飲んでもいいんじゃなぁい???🤭健吾ずっと側にいるし喜ぶよ、きっと(ฅฅ*)🩷🩵