テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#勧善懲悪
#勧善懲悪
ジュレイが持ち帰った契約書の写しは、一見するとよくある相談サービスの同意書だった。丁寧な言葉、細かな注意書き、責任の所在をぼかす長い一文。
けれど読み始めて三分で、彼は目を細めた。
「ひどい」
「違法?」
ピットマンが身を乗り出す。
「ぎりぎりを歩いてる。だから余計に腹が立つ」
ジュレイは赤鉛筆で何か所も線を引いた。
相談内容は必要な連携先へ共有する場合がある。
本人の利益を守るために第三者と調整を行うことがある。
相談の正確性について当方は責任を負わない。
「共有、調整、責任を負わない。全部、都合のいい逃げ道」
ジュレイは言う。
「しかも相談者の署名欄が小さい。読んだ気にさせない配置だ」
マイナがうなずいた。
「役所でも嫌われる書き方」
エリアは紙を奪うように見た。
「こんなの、みんなちゃんと読まないよ」
「読まないように作ってるんだろう」
サペが返す。
法律の隙間は見えた。けれど、今のままでは足りない。被害を受けた本人が、相談したこと、使われたことを言ってくれなければ、ただ嫌な書類で終わる。
「でも名乗り出ない」
ズジが机へ頬杖をつく。
「恥ずかしいから。恋も借金も家族のことも、わざわざ外へ出したくない」
「それが鍵だな」
ジュレイが言う。
「向こうは秘密で鍵をかけてる。だったら、鍵穴ごと壊すしかない」
キオノフが首をかしげる。
「どうやって」
「恥ずかしいのは被害に遭った側じゃない、と先に示す」
しばらくして、工房の前に小さな貼り紙が出た。
秘密を売られた人へ。
あなたが悪いわけではありません。
話したくなったら、ここへ。
きれいな字はテオファイルが書いた。余計な飾りのない、逃げ道を残す字だ。
その日、貼り紙を見て入ってきた人は一人だけだった。顔を隠すように帽子を深くかぶった若い女性で、椅子へ座るなり泣き出した。
「私、あんな紙にサインしただけなのに」
「うん」
サペが短く返す。
「それだけで、友だちにも家族にも知られたくなかったこと、全部使われた」
その言葉を聞いた瞬間、工房の空気が決まった。
これは相談ごっこではない。
人の恥ずかしさを鍵にして、内側から部屋を荒らすやり方だ。
夜、帰り道の途中で、サペは公園の柵にもたれている影を見つけた。
黒い服だった。
ンドレスが、街灯の下で待っていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!