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——これは仕事着を選びに入った店の更衣室で、カーネが服のサイズのチェックをしていた時の出来事である。
『ねぇトト様。お腹の所、痛いんじゃなイ?』
肩に乗るララはどうやら、カーネの近くに立っていたせいで彼女の肘がメンシスの腹に当たった時の話をしているみたいだ。
「かなり痛いよ。当人は無自覚だけど、五歳の頃から“剣”の“聖痕”も持っている彼女からの『攻撃』に該当する行動の破壊力は、訓練せずとも騎士並みだからね。これは多分、跡が残っているだろうな」
そう言ってメンシスがははっと笑う。頬がちょっと赤く、何だかとても嬉しそうな顔で腹をさすっていた。
『……その割にハ、随分と嬉しそうネ』
ララはメンシスの肩に飛び乗り、じっと彼の顔を覗き込む。面白いものでも見たみたいに猫口に笑みを作った。
「彼女がくれるモノなら何だって嬉しいからね」
『今のトト様、とっても変なお顔をしているわヨ』
にやけているような、嬉しいような。様々な好感情の入り混じった顔になっているのをどうにか堪えようとしているせいだろう。
「嫌いになったかい?」
『まさカ!どんなトト様でも大好きヨ』
「それは嬉しいなぁ。君達にフラれたら、この先の指針が無くなってしまって彼女のみへの依存症になってしまうからね。そうなるとまた、正気を保てなくなりそうだからなぁ」
『……大丈夫ヨ、大丈夫。ちゃんと皆、今回はトト様の傍に居るかラ』
苦笑するメンシスの肩に乗り、頬に顔を寄せ、ララはメンシスへ言い聞かせるみたいに優しい声で言った。五百年以上もの時を共に過ごしてきた身だ。今度こそは自分も心を支えてあげられればと、気遣う気持ちを必死に込める。
「あぁ、ありがとう。ララ」
礼を口にし、メンシスが優しい笑顔をララに向けた。
(自分の為にも、この子らの為にも。早く彼女の心を、気持ちを、一刻も早く早く早く——)
決意を新たにし、メンシスが今にも闇に染まりそうになってた瞳を隠す様に瞼をそっと閉じる。
更衣室のカーテンを開け、ちらりと姿を見せたカーネが「……どう、でしょう。これで大丈夫ですか?」と心配そうに、そして少し気恥ずかしそうにしながら訊かれた時にはもう、ララは彼の肩の上にはとっくにおらず、メンシスは穏やかな表情に戻っていた。