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蓮司の相談室2

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蓮司の相談室2

43 - 第43話 ミスして、みんなの前で叱られたあと、部室が怖い

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2025年11月11日

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放課後の廊下は、どこか湿っていた。

部活の声も笑いも遠く、夕陽だけが窓を染めている。

ひとりの男子生徒が、扉の前で立ち止まった。

中で誰かが鉛筆を転がす音がする。


「……入れ」


低い声。

少年は小さく息を吐き、扉を開けた。


教卓のそばに、蓮司がいた。

机に頬杖をつき、書類の山を無造作に押しのけている。


「で?」


顔を上げずにそう言う。


「……部活でミスして。みんなの前で怒られて……

それから、部室に入るのが怖くなったんです」


「怒られ慣れてねぇのか?」


「慣れたいわけじゃ、ないですけど」


少年の声が、笑いにも泣きにもならずに空気に溶ける。


蓮司はペンを回しながら、何も言わない。

時間が少しだけ流れたあと、ようやく口を開いた。


「“また怒られるかも”って思ってるんだろ」


少年はうつむいたまま、微かに頷く。


「はい……誰かの視線とか、声とか。全部刺さるんです。

失敗した自分が、まだそこに立ってるみたいで」


蓮司は窓の外に視線をやった。

夕陽が沈みかけていて、カーテンが微かに揺れている。


「誰だって、一回“壊れた場所”には戻りたくねぇよ」


低く、かすれた声だった。


「でも、戻らないと、“そこにいた自分”が消えるんだ。

ミスしたお前も、ちゃんとお前の一部だからな」


少年は、はっとして顔を上げた。


「……でも、もうみんなの前に立てる気がしません」


「立てなくていい」


蓮司は即答した。


「座ってもいいし、下向いてもいい。

ただ、“いないふり”だけはやめとけ」


少年は喉の奥が詰まった。

その言葉が、静かに刺さって離れない。


蓮司は立ち上がり、窓の方へ歩いた。

沈む夕日を見ながら、片手でカーテンを少し開く。


「人に見られるのが怖ぇのは、

本当は“自分がまだそこにいる”ってわかってるからだよ。

もうどうでもよくなったら、怖くも感じねぇ」


少年は唇を噛んだ。

その一言が、どこか救いに似ていた。


しばらく沈黙が続いたあと、

蓮司は軽く振り向き、口の端だけで笑った。


「ま、逃げてもいいけどな。

逃げながらでも、戻るタイミングって勝手に来る。

そのときは、ドアの音が少しだけ優しく聞こえるかもしれねぇ」


少年は黙って頷いた。

その頷きの中に、かすかに呼吸が戻っていた。


蓮司はまた机に戻り、何事もなかったようにペンを回した。

その音が、静かな部屋の中に溶けていった。


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