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放課後の相談室。
部活帰りの生徒の足音が廊下に響いて、すぐに静かになった。
ドアの向こうで、制服の袖を握りしめた子が、ためらうように立っていた。
「……あの、部活、もう辞めたいんです」
小さな声。
「でも、辞めたら負けかなって……ずっと思ってて」
蓮司は、資料を閉じて椅子にもたれた。
「“負け”って、誰に対して?」
その問いに、相手は言葉を詰まらせる。
しばらくして、ようやく出たのは、震えるような答えだった。
「……自分、です。途中で投げたくないだけで……でも、もう体が動かなくて」
窓の外では、夕陽がグラウンドを赤く染めている。
走る部員たちの掛け声が、遠くに聞こえた。
蓮司は少しだけ笑って言う。
「続けるのも勇気だけど、やめるのも勇気だよ。 限界の先で頑張るのは、勝ち負けの話じゃない。ただ、壊れちゃうだけだ」
言葉のあと、沈黙が落ちた。
その沈黙の中で、相手の肩が少しだけ震えた。
たぶん――ようやく、泣けたのだと思う。