「自ら命を絶つなんて…」
「可哀想だね…」
「信じられない…」
周りから色んな声が聞こえた。
小声でみんなが話している。
そして、教室に先生が入ると同時に葉月も教室に入ってきた。
先生は前に立つなり、重い顔で話し始めた。
「昨夜、桜香が亡くなった…。知っている人は知っていると思うが、自ら命を絶ったそうだ…」
ここでやっと僕は理解した。
桜香さんは本当に、亡くなったのだと。
先生は話を続けた。
「葉月が桜香をいじめ、死へと追い込んだそうだ。葉月、みんなに言うことはないか?」
元気よく笑って見せ、葉月はいつもの無邪気な笑顔で答え出した。
「朝日がさ、私より目立とうとするから面倒くさかったよね〜!でもこれで朝日はいなし!これからみんな、私のところに集まるね!」
意味がわからない。
葉月は本当にそういう奴なのか?
明るくて、偽り一つないような感じの子なのに、本当に…本当に葉月が?
それから話は終わり、葉月の周りには誰もいなかった。いつもならたくさんの人が集まるというのに、今日は誰一人いなかった。
だから、僕が葉月の元へと駆け寄った。
というより、足が勝手に動いた。
〃葉月に事実確認をしなければ〃ただそう思って、足を急がせた。
「…翠」
気づけば、僕は下の名前で呼んでいた。
「え…今…翠って呼んだ?」
「呼んだ…かも。先生が話したこと、本当の話?」
「…本当の話に決まってるじゃん。どう?驚いた?嫌いになった?いや、元から嫌いか。」
「驚いた。けど、嫌いにはなってない。」
むしろ、興味しかない。
「嫌いにならないの…?じゃあ、私のこと好きなの?」
なぜそういう質問になる?
でも、少し…好きかもしれない。
ちょっと、気になる存在だ。
「好きではない。普通ってとこだ」
「なんなの。つまんないなぁ?」
「つまらなくて悪かったな。けど、少し好き…」
「な、なにそれ…素直だなぁ…」
ふと、我に返る。
どうやら僕は葉月の世界に入り込んでしまっていたようだ。
急にみんなからの視線が痛く感じた。
そりゃそうだ。僕は殺人犯と一緒に話しているのだから。だけど僕は、それを悪いものだとは思わなかった。
自分が過ごしたい人と過ごしているのだから、
居心地は良かった。
だが、これ以上痛い目で見られるのはごめんだ。
この話の続きは放課後にしようと思い、葉月の元で呟いた。
「この話の続きは放課後にしよう。」
そう告げると、葉月は寂しい顔を僕に見せ、全力の作り笑顔だとわかるような顔で
「わかった。放課後ね。」と答えた。
僕はその葉月の顔に、胸がチクリと痛んだ。
だが、放課後になる前に葉月は姿を消した。
いつの間にか姿を消していて、誰もいなくなった理由を知らなかった。
みんな誰も葉月のことなんて気にしてなく、先生でさえも探そうとはしなかった。
気にかけていたのは、どうやら僕だけみたいだ。
帰りのホームルームで丁度よく葉月から電話があったみたいで、〃具合が悪くなったから帰った〃とのことだった。
心配な気持ちもあったが、〃どうせまた明日会えるだろう〃と、そう思っていたから気にはとめなかった。
──次の日、葉月は学校に現れなかった。
その次の日も、またその次の日も。
葉月は、学校に二度と現れなくなった。
葉月が学校に来なくなって、丁度二ヶ月が過ぎた頃。
ある噂が回っていた。
〃葉月が入院している〃とのこと。
そのことを詳しく知りたかった僕は、たくさんの人に聞き、情報を集めた。
あとは親友の樹(いつき)に聞いて、今日の情報集めは終わりにしよう。
廊下に座って寝ている樹を起こし、言葉を発した。
「なぁ、樹。葉月 翠さんについてなんだけど、どこに入院してるか知ってる?」
「せっかく人が気持ちよく寝てたというのに…何?入院場所?そんなの当然知ってるけど。逆になんで知りたい訳?」
「いや、…ちょっとね。」
「まさかお前、あんな人殺しのことが好きなのか?」
「…ま、まさか!ある訳ないだろう!?ちょっと気になっただけだよ。」
「だよな。ある訳ないよな。まぁとにかく、入院場所は〇〇病院らしいぞ。あ、俺、葉月って奴のメール持ってるから渡そうか?念の為に、な!」
手を叩いて大笑いしている、そんな親友を見て僕は腹が立った。
怒りたくてたまらなかったが、そんな気持ちは我慢した。
好きなのか、と聞かれた時に〃ある訳ないだろう!?〃と言ってしまった自分に対しても怒りを覚えた。
携帯を取り出し、葉月のメールと交換をする。
葉月のアイコンは、空の青をそのまま反射させたかのような海の背景だった。
そのアイコンに、葉月らしさを感じた。
明るい葉月と、明るい海。
パズルの一ピースが当てはまったように、ぴったりだと感じた。
さっそく、葉月にメールを送ってみた。
明日、葉月の入院先に行ってみることも。
【急にのメッセージ、ごめんなさい。覚えていますか。同じクラスの白之 一澄です。明日、迷惑でなければ葉月さんの入院先に行こうと考えています。入院先は〇〇病院で大丈夫でしょうか?】
すると、すぐメッセージがきた。
【もちろん覚えてるよ〜!暇だったからメッセージ、超嬉しい!ありがと!病院来てくれるの!?〇〇病院で大丈夫!ていうか、なんで敬語なのー?まぁいっか。明日待ってるね!】
いつもの葉月らしさが感じ取れた。
元気そうで良かった、と心の底から安堵した。
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