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眠狂四郎さん、第5話読みました! エレノア王妃、めちゃくちゃ怖いけど魅力的すぎます…「善意で動くから止まらない」って台詞、ゾッとしました。サイラスが震えるのも分かる。そして後半のジョン殿下の内面描写に胸が痛みました…「期待されない苦しさ」、よく描けてます。ラストの「税とは奪うこと」という伏線が不穏で、次が気になりすぎます!
サイラスはユンナから
手紙を受け取ると
差出人の名前をみて
ガタガタ震え始めた
焚き火の火がぱちりと鳴る。
その横でユンナは腕を組み、じっと彼を見ていた。
「見なかったことにしよう」
「この手紙燃やして」
「グラツィアに帰ろう」
ユンナが目を丸くする。
「こんだけ火をつけといてどうするのですか」
「そもそもエレノア王妃ってどういう人ですか」
サイラスは真顔でしゃべり始めた。
「もとグラツィア国王妃」
「へ?」
「すぐ離婚した」
「今はカルド王の“妻”」
「もともとはグラツィアとエスカリオ両方に巨大な影響力を持つ大貴族の娘」
「下手すると王様より怖い」
「怖いって……」
「実際、その政治力からどっかの女王になっててもおかしくない」
ユンナは黙って聞いている。
「ちなみにカルド王もめっちゃ気を使っていると思う」
「えぇ……」
「政治、外交、財政、貴族同士の駆け引き」
「全部できる」
「しかも本人がそれを理解してる」
「最悪ですね」
「最悪だ」
サイラスはうなずいた。
「でも良妻賢母という噂だし、人気もあるんでしょ」
「そこが厄介なんだ」
「彼女の行動の規範は愛だ」
「恋愛、子どもへの愛、家族愛、王家、そして民への愛」
「国家や宗教なんて彼女にとって何の意味もない」
「リチャード殿下にもジョン殿下にも甘い」
「英雄気取りのバカ息子だろうと」
「引きこもりのダメ息子だろうと」
「軍師様言いすぎです」
「彼女は家族のためなら尊厳をかけて戦うだろう」
「もし例えばカルド王との夫婦喧嘩でも始まろうものなら」
「数万単位の兵が争う内戦に突入するだろう」
「冗談ですよね」
「冗談じゃないから怖いんだ」
サイラスは遠い目をした。
「よく言えば良妻賢母」
「悪く言えば悪鬼羅刹」
「めちゃくちゃじゃないですか」
「怒ったら手がつけられない」
「みんな彼女の怒りのことを」
「エレノアのトールハンマーと呼んでいた」
「王妃の雷槌ともいう」
ユンナが固まる。
サイラスは焚き火へ枝を放り込んだ。
「しかも恐ろしいのは」
「本人に悪意が薄いことなんだ」
「は?」
「エレノア王妃の中ではすべて善意であり、正義なんだよ」
「だから止まらない」
ユンナは頭を抱えた。
「怖すぎません?」
「だから僕は帰りたい」
「関わりたくない」
サイラスは真剣だった。
「だいたい嫌な予感しかしない」
「王妃から直接手紙が来る時点でろくなことじゃない」
「内容は読んだんですか?」
「読まなくても分かる」
ユンナは半笑いになった。
「この前の聖地奪回戦でもリチャードが行軍途中で」
「妹が軟禁されたかなんかで王国二つぶっ潰しているだろ」
「あれ、母親の血だよ」
ユンナは無言になった。
焚き火がぱちりと爆ぜる。
「でもサイラスさん、昔一回しか会ってないんですよね?」
「会ったのは一回だ」
「でも向こうは覚えてる」
「なんで」
「人を覚えるのが異常に得意だから」
「怖いなんてもんじゃない」
「……帰りましょう」
「だろう?」
「――じゃ、そういうことで」
サイラスは真顔のまま手紙を焚き火へ近づけた。
「ところで先ほどからご使者が返事を待っているのですが」
「それ先に言ってよ」
その時だった。
背後から、やけに丁寧な咳払いが聞こえた。
「――あのう」
二人が同時に振り返る。
いつの間に現れたのか。
そこには、一人の老人が立っていた。
年齢は六十を超えているだろうか。
黒い外套を羽織り、片手に杖を持っている。
しかし、その背筋は妙に伸びていた。
柔らかな笑みを浮かべているのに、隙がない。
サイラスの顔から血の気が引いた。
「げっ」
老人は優雅に一礼した。
だがその瞬間、サイラスは反射的に手紙を背中へ隠した。
「い、いや、その、これは違っ――」
「エレノア様より、“必ず返答をいただくように”との仰せでして」
にこやかだった。
実ににこやかだった。
だがサイラスは完全に硬直している。
ユンナは恐る恐る小声で聞いた。
「知り合いですか?」
「……王妃付きのウィリアム・マーシャルさん」
サイラスは深くため息をついた。
焚き火の火がぱちりと鳴る。
その横でユンナは腕を組み、じっと彼を見ていた。
「昔から王妃の側近やってる化け物」
「聞こえておりますよ、サイラス様」
「ひっ」
ウィリアムは穏やかな笑みを崩さない。
だがその笑顔が、逆に恐ろしかった。
「いやぁ、お久しゅうございます」
「大きくなられましたな」
「会うたびに寿命が縮んでますよ……」
「王妃様もお喜びになります」
「帰りたい」
即答だった。
ユンナは思わず吹き出しそうになる。
だがサイラスは笑えない。
ウィリアムは焚き火のそばへ歩み寄ると、
ちらりとサイラスの手元を見た。
「王妃様もぜひ会いたがっております」
ウィリアムは念をおした
サイラスは真っ青だった。
ウィリアムは完璧な礼をしたまま、優雅に告げた。
「手紙を確かに受け取ったと報告しておきます」
嫌な予感しかしない。
サイラスは顔を引きつらせた。
急いで封を開け、一読するや
ウィリアムの背にある疑問を投げかけた
「王妃はロビンを知っているのか!」
「はい。あの方は一度会った方を忘れませんから」
焚き火が、ぱちりと爆ぜた。
エスカリオ王宮――
ジョンは、幼いころからずっと居場所がわからなかった。
それを自覚したのはいつ頃だろうか
父・カルド王は、
貧民から王にまで成り上がった男だった。
敵味方をユーモアで笑わせ、
周りの重臣からは英雄のように語られている。
兄・リチャードはさらに眩しかった。
若くして剣術大会を制し、
騎士たちの憧れとなり、
民衆はその姿を見るだけで歓声を上げる。
そして母・エレノア王妃。
彼女が舞踏会に現れれば、
貴族たちは息を呑み、
各国の使者は機嫌をうかがった。
笑顔ひとつで空気を変え、
怒れば王侯貴族すら黙り込む。
誰もが強かった。
誰もが特別だった。
その中で、
自分だけが“普通”だった。
剣を握っても、
兄のようにはなれない。
何度振っても遅い。
踏み込みは甘い。
騎士団長は気を遣って褒めてくれるが、
本当はわかっていた。
自分は弱い。
学問も同じだった。
政治論も歴史書も、
開けば眠気が来る。
周りの人が話す政治の話など、
半分も理解できない。
なのに。
父は笑って言うのだ。
「まあ人には向き不向きがある!」
母は優しく肩を抱く。
「あなたは優しい子だもの」
兄は稽古のあと、
汗だくのままパンを放ってくる。
「気にすんな、ジョン」
誰も責めない。
誰も怒らない。
誰も期待を押しつけない。
――だからこそ苦しかった。
期待されないということが、
どれほど痛いのか、
ジョンは誰にも言えなかった。
王宮の廊下を歩くたび、
自分だけが借り物みたいに思えた。
自分は、
この家に本当に必要なのだろうか。
そんな思いを、
胸の奥に押し込めながら、
ジョンは今日も笑っていた。
エスカリオ王宮の廊下は、
今日も聖地奪回の話で満ちていた。
「ついに聖戦が始まる」
「諸侯も兵を出すらしい」
「リチャード様ならば必ずや――」
貴族たちは熱に浮かされたように語る。
騎士たちは剣を磨き、
若者たちは栄光を夢見た。
だが。
その熱狂の中心にいるはずのカルド王だけは、
どこか静かだった。
夜。
執務室の扉が少しだけ開いている。
ジョンは、
中で一人地図と帳簿を睨む父の背中を見た。
遠征費。
兵糧。
輸送費。
諸侯への補償。
聖地までの航路。
山のような数字。
カルド王は戦場で豪快に笑う男だった。
だが今、
その背中は妙に老けて見えた。
ジョンはそこで初めて理解する。
――英雄でも国は金で動くのだ。
その瞬間だった。
ジョンの中で、
何かが繋がった。
剣では兄に勝てない。
戦場では父に届かない。
母のように人を魅了することもできない。
だが。
「新しい税を考えればいい」
ぽつりと、
ジョンは呟いた。
「国家の財政を潤せば」
「父上の悩みを解決できる」
その考えに至った瞬間、
胸が熱くなった。
初めてだった。
自分にも、
国の役に立てることがある気がした。
だが。
ジョンはまだ知らない。
税とは、
人から奪うということを。
国家を救うための金は、
民の涙から生まれることを。
そして後に、
その“善意”が、
王国全土を揺るがす火種になることを――。