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後ろを振り返ると噴水があり、すぐ近くの脇道を通れば、大きな公園に繋がっているようだった。
「後ろの噴水もライトアップされて、家族連れやカップルがたくさん来るし、昔はここで、ドラマのロケとかもやってたらしい」
「そうなんですね。でも、豪さんが郊外で好きな場所があるっていうのが意外です」
「そうか?」
「何となく、都内のデートスポットに詳しいイメージです」
二人でしばしの間、駅周辺を望む。
周りには誰もいない。
ここにいるのは、豪と奈美だけだ。
彼が繋いだ手をギュッと握り、彼女を見て目を細めた。
「冬になったら、イルミネーション、一緒に見に行こうな?」
「ぜひ、連れて行って下さい」
奈美も彼に微笑むと、不意に彼が笑みをおさめ、蕩けてしまいそうな視線を絡ませてくる。
端正な顔立ちを傾けながら奈美に近付くと、豪が優しく唇を重ねてきた。
帰りは、豪が奈美の自宅近くまで送ってくれる事になり、東西を走る街道から国道に出て、北上していった。
「…………あっという間だったな」
ステアリングを握る彼が、心残りを滲ませて呟く。
昨日の夜から丸一日以上、彼と一緒にいた。
奈美にとって、色々な事があり過ぎた一日。
豪と過ごした夢のような時間は、そろそろ終演を迎えようとしている。
(寂しい……。すごく…………寂しい)
こんなに離れ難い気持ちになったのは、初めての事で……。
車内の空気が沈黙に包まれたまま、国道を北上し続けていた。
渋滞のピークは既に過ぎ、車はスムーズに流れている。
「俺と離れるのが寂しい?」
彼女の沈みそうな気持ちが、顔に表れていたのかもしれない。
豪が、口角を片側だけ器用に上げ、揶揄い混じりに聞いてきた。
何て答えようかと考えを巡らせながら、車窓から流れていく景色を見つめる。
「…………寂しい」
彼から顔を背けたまま、奈美は小さく零す。
豪はステアリングを握ったまま、奈美を横目で見やった後、そうか、と一言だけ言うと、国道から外れ、住宅街へ繋がる道へ向かった。