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る る あ ︵ ︵ 🌈🍑
かんすい
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福島を離れ、東北道を南下。栃木を抜けて群馬県太田市に入ると、景色は一気に親しみやすい地方都市の風景に変わった。 「……先輩、ここ、先輩の地元ですよね?」 「ああ。少し寄りたいところがある。……お前に食わせたい『真っ黒なやつ』があるんだ」
先輩が車を止めたのは、年季の入ったのれんが揺れる**『岩崎屋(いわさきや)』**。 太田名物、上州太田焼きそばの聖地だ。
食: 衝撃を受けるほど真っ黒なソースに、太めの麺。具はキャベツのみという潔さ。
シーン: 「見た目で判断するなよ。……ほら」 一口食べると、見た目とは裏腹にマイルドで、出汁の効いたソースの香りが広がる。 「……不思議。全然しょっぱくないし、あと引く味です」 「だろ。これが俺の、ガキの頃の贅沢だったんだ」 口角に黒いソースをつけた私を見て、先輩が子供のように笑う。完璧なエリートの彼が、ここではただの「太田の少年」に戻っている気がした。
「……ただいま」 「あら、聖司(せいじ)! 急にどうしたの」 太田駅近くの静かな住宅街。そこには、先輩にそっくりなシュッとしたお父さんと、明るいお母さんが待っていた。
「……彼女です。一緒に旅をしてる」 先輩のぶっきらぼうな、でも力強い紹介に、心臓が跳ねる。 「あらあら! 聖司が女の子を連れてくるなんて……。ちょうど良かった、『登利平(とりへい)』の鳥めし取ってあるわよ!」
食: 群馬県民のアイデンティティ、登利平の「鳥めし竹弁当」。薄切り肉と秘伝のタレが染みたご飯。
シーン: 茶の間で、先輩の家族と並んでお弁当を広げる。 「聖司、小さい頃はこのタレだけでご飯3杯食べてたのよ」 「母さん、余計なこと言うな」 耳を赤くして鳥めしを口に運ぶ先輩。仕事中の彼からは想像もつかない、温かい家庭の風景。私はその輪の中にいることが、何よりも美味しくて、幸せだった。
「……悪かったな、変なとこ連れてきて」 客間に布団を並べるわけにもいかず、結局、先輩の昔の部屋に二人。 学習机や賞状が残る少し照れくさい空間で、先輩が後ろからぎゅっと抱きしめてくる。
「先輩のご両親、すごく素敵ですね」 「……お前が美味そうに鳥めし食ってるから、母さん、すっかり気に入ったみたいだぞ」 先輩の手が、私の服の中に滑り込む。実家という背徳感が、昨夜よりも私たちを大胆にさせる。
「……ここでは、声、我慢しろよ?」 耳元で囁かれる熱い吐息。 外からは、遠くを走るスバル(SUBARU)の工場の音がかすかに聞こえてくる。
「明日は、太田を出て……一気に長野か山梨に抜けるか」 「はい。先輩のルーツを知れて、もっとお腹いっぱいになっちゃいました」
翌朝、お土産に大量の**『焼き饅頭(やきまんじゅう)』**を持たされて、二人のSUVは再び走り出す。 群馬の甘じょっぱいタレの香りを車内に残したまま、旅は西へと進んでいく。