第7話 闘いの始まり
梨柚は最近、教室にいる間ずっと、鋭い視線を感じていた。誰のものか分からない、背中を刺すような視線。
梨柚は特に気にしてはいなかったけど、やっぱりアイツは気になるみたいだった。
「なんか……最近視線感じるんだけど…….」
「視線って?」
「んー、良くない視線、みたいな?」
「は?絶対桃井だろ。あいつ潰してくるわ」
「ちょっと、やめてよ」
栲だった。
はぁ、と、梨柚は深いため息をつく。どうも、栲は最近、恋歌のことになるとピリピリする。あの日の放課後、栲の力強い声を思い出すと、梨柚の心に勇気が湧いてくる。栲は「忘れろ」と言うけれど、梨柚はずっと覚えているつもりだ。
守ってくれる、栲はそう言っていたけれど….。これじゃまるで、栲がガン飛ばしてるだけだ。
栲に言うと暴れ回りそうだから言ってないけど、酷くなったのは視線だけじゃなかった。クラスメイトからの無視もエスカレートしていく。最近は、持ち物を荒らされたり、給食をぶっかけられたりする。これはもう嫌がらせじゃない。本格的な「いじめ」だった。
このままだと、自分は耐えられなくなるかもしれない。そう思うほどに、壮絶ないじめだ。実際、栲がいなければ自分は今頃自殺でもしてるんだろうという自信が、梨柚にはあった。
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学校が終わり、梨柚は家に帰った。自分の部屋に入り、ベッドに腰掛ける。そして、深呼吸をした。深く息を吸い、吐く。そして、決めた。それはずっと梨柚の心の中で迷い続け、ようやく決心できた事だった。
────闘おう。
栲にばかり頼っては居られない。自分を強く持たなければならない。膝の上で、固く手をにぎりしめる。自分が何か恋歌の気に障るようなことをした時、まずは梨柚の味方である栲を奪おうとするはずだ。栲だって100%安全なわけじゃない。
守ろう。
お互いに守り合えば、なんだって乗り越えられる。そんな気がしていた。
梨柚は決意を固め、窓の外を見つめた。
そうしていると、1つ、今まで気にしていなかったことが頭に浮かんだ。
澪那の事だ。
あんなに仲が良くて、親友だったはずの澪那が、あの日、話しかけないで欲しい、という目で梨柚を見た。誰かに何かを言われたんだということは分かっていた。その「誰か」が、誰なのかも、分かっていた。
────親友を取り戻したい。
澪那は自分のことを、”元”親友だと思っているんだろう。
でも、梨柚はまだ、”元”だなんて思ってない。
また2人で笑いたい。
梨柚は夕日の差し込む部屋で、大好きな親友のことを想った。
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