第8話 “元”親友
梨柚は、決意を固めてから、逃げることをやめた。これまではいじめにより、学校を休むこともたまにあったが、そんなんでは恋歌達に負けて、逃げているのと同じだと思い、休む回数が徐々に減っていった。そして学校内でも、今までは恋歌達を見かけたら、彼女達が通り過ぎるのをわざわざ待っていたが、それもやめた。ぎゅっと目を瞑って、恋歌達の横を通り過ぎていくようになった。自分には学校に来る権利があるのだと、行動で主張し始めたのだ。
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「ねぇ澪那」
呼びかけられた澪那は、歩みを止めて振り返った。そこに居たのは恋歌だ。
「あっ……どうしたの?恋歌」
澪那は咄嗟に作り笑いをする。中学に上がってから仲良くなった桃井恋歌。クラスの中心で、「陽キャ」とか、「一軍」とかそっち系の、少し怖いポジションにいる子だった。そんな子が、目立たない澪那と関わろうとするのには理由がある。
恋歌は不満そうな顔で言った。
「なんか最近さー。あのクソ女調子乗ってない?ムカつくんだけど」
クソ女、というのが誰のことを言っているのか、澪那には分かる。分かりたくなくても、分かってしまう。
“元”親友の事だと、分かってしまう。
「そ、そうなんだ。気づかなかった。….調子乗ってるって、どんな風に?」
会話を続けないと嫌われる気がして、知りたい訳でもないのに聞いてしまう。
「なんか、今までウチらのこと怖がって避けたりして、それがいじめやすくて面白かったのに、最近避けられなくなったし、ウチらの話聞こえてもどうでもいいみたいな顔してんの。マジムカつく。バカにしてるよ、ウチのこと」
恋歌はムスッとしている。
澪那の頭に、元親友がいじめられている時の、悲しそうで、苦しそうな顔が浮かんだ。はっとして、頭からあの顔を振り払う。
もう、梨柚は親友じゃない。友達じゃない。
だって、自分は裏切ったのだから。
恋歌が言った。
「ねぇ。……そろそろアイツ、本気で潰しちゃわない?」
潰す、つぶす。その言葉を、恋歌がどういう意味で使ったのかは、考えたくもなかった。でも、何か少しでも気に障れば、自分も潰される気がした。
澪那は、苦笑いを浮かべて、頷くことしか出来なかった。
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