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The Mark of Devouring Desire
噛みついたその瞬間から、
それは“行為”ではなくなっていた。
――契約だった。
カルディアの歯がリエルの首筋に沈んだまま、
時間だけが歪んでいく。
どれほどの間、そうしていたのか。
一瞬だったのか。
それとも、永遠に等しかったのか。
ただ確かなのは――
終わらなかったということ。
「……っ、まだ……」
カルディアの声は掠れていた。
離れようとする。
だが、離れられない。
口元に残る“甘さ”が、
彼の意思を否定する。
(足りない)
さっき、満たされたはずなのに。
その直後には、もう空洞が広がっている。
リエルは、そんな彼を見下ろしていた。
拒まない。
逃げない。
むしろ――
「……続ける?」
その一言が、火をつけた。
「……っ、やめろ……」
だが、手は震えながら彼女の肩を掴む。
離したい。
壊したくない。
なのに。
全部欲しい。
その衝動が、すべてを塗り潰す。
リエルは、そっと彼の頬に触れた。
「ねえ、カルディア」
その名を呼ばれた瞬間。
ドクン、と。
胸の奥で、何かが確定する。
「これ、もう“食事”じゃないよ」
「……何だと」
「“結びつき”」
その言葉が落ちた瞬間――
リエルの首元に、異変が起きた。
カルディアの歯が触れていた場所。
そこに、黒い紋様が浮かび上がる。
まるで、焼き付けられたように。
ゆっくりと、螺旋を描きながら。
「……これは……」
カルディアが、思わず手を伸ばす。
触れた瞬間。
ドクンッ――!!
今度は、二人同時に。
鼓動が重なる。
呼吸が揃う。
視界が、共有されるような感覚。
「……っ、何をした……!」
カルディアが声を荒げる。
リエルは、静かに笑った。
「だから言ったでしょ」
「“契約”だって」
#恋愛
その瞬間。
カルディアの胸にも、熱が走る。
服の下、心臓の上。
何かが刻まれていく。
「……っ、やめろ……!」
痛みではない。
だが――
拒絶できない。
やがて、熱が収まったとき。
そこには、同じ紋様があった。
黒い螺旋。
互いを指し示すように、対になっている。
「……これで、繋がった」
リエルの声は、どこか満足げだった。
カルディアは、息を整えながら睨む。
「……解除しろ」
「できないよ」
即答だった。
「これは、“欲望そのもの”で結んだ契約だから」
「……意味がわからない」
「あなたが欲しがった」
リエルは、静かに言う。
「私も、欲しかった」
「だから、成立したの」
その理屈は、単純だった。
だが――
あまりにも重い。
カルディアは、自分の胸を押さえる。
(……感じる)
リエルの存在が。
位置も。
鼓動も。
そして――
わずかな感情の揺らぎまで。
「……ふざけるな」
「ふざけてないよ」
リエルは、彼に近づく。
「ねえ、今どう思ってる?」
「……何も」
「嘘」
彼女は、彼の胸に手を当てた。
「ここ、ずっと叫んでる」
ドクン、と。
反応してしまう。
「……っ」
「“もっと欲しい”って」
カルディアは、歯を食いしばる。
否定できない。
すでに、彼の中の“欲望”は――
リエルに固定されていた。
「……異常だ」
「そうだね」
「……修正する」
「無理だよ」
そのやり取りの最中。
空間が、再び歪んだ。
今度は――
一つではない。
無数。
白い裂け目が、同時に開く。
「……来た」
リエルが、呟く。
現れたのは、ゼノスだけではなかった。
同じような“白”が、複数。
回収者。
いや――
“処分者”。
「対象カルディア、危険度最大」
「対象リエル、欲望発生源と断定」
複数の声が重なる。
「――両者、即時消去」
空間が、完全に戦闘状態へ移行する。
カルディアは、ゆっくりと立ち上がる。
「……来るな」
その声は、低く、濁っていた。
かつての“機能”としての声音ではない。
明確な感情。
独占。
リエルが、彼の背に軽く触れる。
その瞬間。
契約の紋様が、強く光る。
「……全部、来るね」
「……ああ」
カルディアの背に、再び“黒い翼”が現れる。
今度は、より濃く。
より巨大に。
欲望そのものが、形を取っている。
「……リリース制限、解除」
ゼノスたちの光が、一斉に膨張する。
その圧力に。
空間が軋む。
だが。
カルディアは、一歩も退かない。
リエルを背に。
「……誰にも、触らせない」
その言葉は、もはや宣言だった。
彼の中で。
すべてが決定的に変わっていた。
守るためではない。
正義でもない。
ただ――
奪わせない。
それだけ。
リエルは、そんな彼を見て。
静かに、微笑んだ。
「いいね、それ」
そして、囁く。
「ちゃんと“悪い欲望”になってきた」
その瞬間。
戦いが、始まった。
欲望と秩序の衝突。
そして――
取り返しのつかない領域へと、
物語は踏み込んでいく。