テラーノベル
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翌朝、昨日と同じ大きなベッドの上で目覚めた楓は目を開けた瞬間ギョッとする。
昨日の朝は背後から一樹に抱き締められていたが、今朝は楓が一樹に抱きつくような形で寝ていた。
(な……何で?)
楓は必死に昨夜の事を思い出そうとする。
昨夜も楓が先に寝た。もちろん寝る時はなるべくベッドの隅に横になったつもりだ。
しかし今楓がいる位置は、センターラインを大きくはみ出し明らかに一樹の陣地に乗り込んでいた。
楓の右手は一樹の腰に回り一樹の左手は楓の腰に回っている。
二人はまるで寄り添う恋人同士のようにしっかりと抱き合っているではないか。
(どうしよう……今朝も身動きが取れない……)
少しでも動くと一樹が起きそうだったので楓は焦る。今この体勢で一樹に起きて欲しくはなかった。
なぜなら一樹の顔が至近距離にあったからだ。
(早く起きて朝食の支度と出掛ける準備をしたかったのに……)
楓ががっかりしていると一樹が目を覚ました。
「うーん……おはよう……」
目覚めたばかりの一樹の気だるげな視線と少しかすれた声がとてもセクシーだったので楓はゾクッとする。
その時一樹が自分達の体勢に気付いた。楓は慌てて一樹の腰に回していた手をはずす。
「今日は楓の方から来たのか……ラッキーだな」
一樹は何ともいえない優しい笑みを浮かべると、5センチ先にある楓のおでこにチュッとキスをする。
その瞬間楓の顔が真っ赤に染まる。
「す、すみませんっ……私…結構寝相が悪いみたいで……」
「こんな寝相の悪さならいつでも歓迎だ」
「いえっ……今後は気をつけますっ」
「そんなにムキにならなくてもいいさ。さあて、じゃあそろそろ出掛ける準備を始めようか?」
「はい。朝食を作りますけど食べますか?」
「うん。でもトーストとコーヒーくらいの簡単なものでいいよ」
「わかりました」
「シャワー先に使っていいぞ」
「ありがとうごございます」
楓はベッドから飛び起きると、そそくさと逃げるように部屋を後にした。
そんな楓を一樹は笑いをこらえながら見ていた。
バスルームでシャワーを浴びながら楓は思う。
(はぁーっ、毎朝ドキドキするなんて心臓に悪いかも。それにしてもあの匂いはなんとかならないの? あんないい香りがすぐ近くでしたらなんだかおかしくなりそう。まるで魅惑的な花の虜になってしまった蝶のような気分よ)
楓は大きく深呼吸をすると両手で頬をペチペチッと叩く。
バスルームを出た楓は黒のパンツと白いブラウスに着替えた。初出勤なので少しきちんとした服装を選んだ。
楓はその上にエプロンをつけると、トーストとスクランブルエッグの簡単な朝食を用意した。
朝食の準備が出来た時、一樹がシャワーを終えてリビングに戻って来た。
グレーのスウェットパンツに黒のTシャツを着た一樹は、まだ少し湿った髪を額に垂らしている。
とても爽やかな朝だというのに一樹の姿からは男の色気がムンムンと溢れていた。
両腕の筋肉はがっちりと逞しく、一目見ただけでかなり鍛え上げられているとわかるほど胸板が厚い。
楓はついドキドキしてしまい一樹から慌てて目を逸らした。その時一瞬チラリと何かが見えた。
(刺青?)
楓の視界に入ったのは紫色の花びらのような絵柄だった。その時初めて本物の刺青を見た楓は驚いていた。
やはり一樹は本物のヤクザだったのだ。
楓はその動揺を一樹に悟られないようにしながら、なんとか朝食を食べ終えた。
その後楓は一樹の車で会社へ向かった。
「朝は一緒に出られるけど、帰りは俺の方が遅いからヤスに送ってもらうといい」
「大丈夫です。帰りは一人で帰れますから」
「いや、それは駄目だ。一人だと危険だからな」
何が危険なのだろうと楓は不思議に思う。
「兄は私の居場所を知らないので大丈夫ですよ。それに買い物で色々と寄る所もあるので一人の方が気が楽です」
「確かにそうかもしれないが、うちの組では俺くらいの立場の女には常にボディガードをつけるのが習わしなんだよ」
「ボディガード? 大丈夫です。私には必要ありません」
楓があまり乗り気ではないので、一樹は少し考えた後言った。
「わかったよ。じゃあつけないから」
それを聞き楓はホッとする。
しかし一樹は楓に見つからないように若手の組員を護衛につけるつもりでいた。
やがて車は会社へ到着した。
地下駐車場で車を降りた二人は、エレベーターへ乗り今日から楓が働くフロアで降りた。
「「社長、おはようございますっ」」
「「社長! お疲れさまですっ」
「おはよう」
挨拶を終えた若い組員たちは、一樹の後ろを歩いている楓に目を留める。その瞬間ハッと驚いた顔をしたかと思うと急にニヤついた表情を浮かべる。楓が動画に出ていたAV女優だと気付いたのだろう。
楓はその好奇心に満ちた視線を浴びて急に居心地が悪くなる。
その時一樹が大声で叫んだ。
「そういう目つきはやめろ! 今後そんな目で楓を見たらただじゃおかないからな」
「「しっ、失礼しましたっ」」
「「申し訳ありませんっ!」」
一樹の鶴の一声で、それ以降楓にいやらしい目を向ける者はいなくなった。
楓は前を歩く一樹の広い背中を見つめながら、自分は守られているのだという事をひしひしと実感していた。
コメント
35件
一樹さんの匂いが好きで、すっかり安心している楓ちゃん....✨ 本能では、もう一樹さんを好きになっているね♥️ 無防備すぎる楓ちゃんだけど、一樹さんの女だから ク◯🗑️兄以外でも 危険がいっぱいだよ....😱😱😱 しっかり守ってもらってね🙏
一緒に寝てて安心感から無意識に抱きついてしまったのかな😉 やはり部下のニヤついた視線は嫌悪感しかないよね💦 一樹さんの威嚇ぶりさすが👏👏 ボディーガードも必要だよね。ひっそりお願いします🫶
てるみ、いつまでも、てるみ、だれよりも、てるみ、だきしめたいよ、もぉっと~。(田原俊彦『抱きしめてTONIGHT』より)あいつ来るで、多分。事情か、苦情か、痴情か、知らんけど。きみのこと、まもりたぁい~。守ってもらいなはれ。