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#恋愛
芙月みひろ
#ハッピーエンド
「さーて! 我が部のマネージャーであり、天女であり、俺の愛のキューピッドである明里様よ。昨日話してた女子を紹介してくれ!」
朝練の時の大木の様子を見て、『あ、こりゃダメだ』と思った僕だったわけで。なのでちゃんと練習に集中しろと言いに行こうと思っていたら、大木はすでに動き出していた。けどまあ、とりあえず女子を紹介してもらえれば少しはマシになるだろう。
「う、うん。じゃあ今から連れてくるけど……」
歯切れ悪く、ちょっと困り顔で少々引いている明里だった。そりゃここまで必死な男子に友達を紹介するか否か躊躇うに決まっている。
「そ、それじゃちょっと待っててね」
とことこと、明里は一人の女子の所へと歩いて行った。不安げな表情のまま。昨日は複数人いるようなことを言っていたけど、一人に絞った理由はなんとなく察することができる。まあ、面白そうだから僕も大木の所まで行ってみることにした。
で、明里が連れてきた女子を見てビックリ。男子から超モテモテの如月光莉《きさらぎひかり》さんだったから。ハッキリ言って、めちゃくちゃ可愛いんだよ如月さんって。
「あ、あの。大木くん。今まであんまりお喋りしたことはなかったんだけど、じ、実はね――」
顔を赤らめながら大木に話しかけた如月さんだったが、彼女の言葉を遮るかのようにして、勢いよく立ち上がり、そして――
「キミか! キミなんだな!! 俺のことが好きだという女子は!! いやはや目の付け所が違うな! で、どうする? 昨日も今朝も俺はスッポンドリンクを摂取してきた! 準備は万端だ! 今すぐにでもイケルようにしてあるぜ! というわけで、これから一緒に体育倉庫に行こう! そして俺と愛を育もうじゃないか!」
あまりに必死な大木に、如月さんの顔色は一瞬にして真っ青に。僕も引いた。めちゃくちゃ。やっぱりコイツがモテない理由って、絶対にこの性格だよなあ。
「え、えーっと……ご、ごめんなさい! な、なな、なんでもないです!」
逃げるようにして、如月さんは自分の席へと戻って行ってしまった。
で、明里はというと。
「大声でそんなこと言ってどうするのよ! クラスの皆に聞かれちゃうじゃない! それに、いきなり体育倉庫!? スッポンドリンク!? あり得ないから! まずはお友達からでしょ普通は!!」
鋭い蹴りを大木にかまし、公開説教をする明里だった。
コイツ、護身術を身に付けるために道場に通ってるからなあ。蹴りを食らった大木は「グエェッ!」という潰れた蛙のような声を発すると共にその場にダウン。
身から出た錆だから僕もフォローする気にもならなかった。
「ちょ、ちょっと待てよお前……。アイツ、俺のことが好きなんだろ? だったら――」
「フンッ!!」
はい。明里、本日二回目の蹴りが炸裂。鬼のような形相をして。
「二度と紹介なんかしないから! しっかり反省しなさい!」
「そ、そんな……。じゃあ、俺はこれから何を楽しみにして生きていけば……」
「んなこと、私が知るかっていうの!」
はい。本日三回目の蹴りが炸裂。あらら。せっかくのご縁を無駄にしちゃったよ。しかも「うおおーん!!」と大きな声で号泣してるし。こりゃ当分の間、大木に彼女はできないだろうなあ。
どうでもいいけど。
* * *
全ての授業を終えて、僕達は練習のために体育館へと向かった。暗ーい顔をした大木も一緒に。
が、練習を始める前に顧問の緑川先生が部員全員を集合させた。
「今度の練習試合のスタメンを発表する。各自、相応の覚悟と心の準備をしておくように」
なるほど。来週の練習試合のことか。三年生の先輩方の引退試合も近いから、その調整のためなのだろう。
「では発表する。センター、大隣! パワーフォワード、大木!」
ここまでは想定内だった。監督の性格上、練習試合といえど勝ちにいこうとしているに違いない。三年生にとっての最後の調整試合とはいえ。
それに、先輩方を差し置いて大木がスタメンに指名されたのにはれっきとした理由がある。
本来レギュラーを務めていた先輩が膝を痛めて試合どころではないからだ。とはいえ、三年生に二年生、そして一年生含め、他の選手達は正直言って実力不足であることは否めない。だから大木が選ばれたのだろう。
今のところ、ウチのチームに大木に敵うパワーフォワードの選手はいない。ゴール下での大木のプレイは目を見張るものがある。上手すぎるんだよ、フェイクが。それに、スクリーンアウトがめちゃくちゃ強い。センターを務める大隣先輩以上にリバウンドを取ることができる。
今は死んだ魚のような目をしているのがすごーく気になるけど。
「スモールフォワード、櫻井! ポイントガード、山辺!」
まあ、僕には縁のない話だ。僕なんか足元にも及ばない『あの先輩』がいるのだから。
田西勇気先輩。僕はあの人のことを心底尊敬している。シュートフォームは決して綺麗とは言えない。しかし、フィジカル面が突出しているのだ。
まるで、竹がしなるようなフォーム。スリーポイントシュートの成功率も半端じゃない。
その上、ドリブルが本当に巧い。まるでボールが先輩にくっ付いているかのようにいつも見えて仕方がなかった。だからだろう。ディフェンダーがどんなにピッタリくっついてきても、軽々と振り切ってしまえるのは。
しかも広い視野を持っているため、センターやフォワード陣に的確なパスも出せる。大学もバスケで推薦入学がほぼほぼ決まっていると聞いているし。当然と言えば当然なことだ。
「最後! シューティングガード、宮部!」
一度でいいから、三年生を相手に試合に出てみたいもの――ん?
「聞いてるのか宮部!」
「す、すみません。なんでしたっけ?」
緑川先生は僕をちょいちょいと手招きで呼び、頭の上を思い切りぶっ叩いてきた。
「真面目に話を聞け! 馬鹿者が! 次の試合、お前に出てもらう。分かったか、宮部!」
――は?
* * *
部活が終わり、帰宅するために明里と共に帰路に就いている。自主練をする気にもなれなかったからだ。
「まさか大輔がレギュラーに選ばれるなんてねえ。ちょっと信じられないよ」
「――ほんとだよね」
「それにしてもさ。田西先輩、何かあったのかな? 今日も練習に来てなかったし」
やっぱり明里も僕と同じことを考えているようだった。そりゃそうだ。あのポイントゲッターでもある田西先輩ではなく、僕がレギュラーに選ばれたのだ。青天の霹靂とはまさにこのことだ。
「どうしたの大輔? すごく暗い顔をしてるよ?」
「うん、分かってる。なんかさ、素直に喜べなくて。田西先輩を差し置いて、僕が試合に出るとか……痛っ!」
夜空に広がる満天の星空によって、その姿を幻想的に浮かび上がらせていた明里が軽く僕の頭を叩いてきた。
「何馬鹿なことを言ってるのよ。差し置いてとか。訳ありに決まってるでしょ、田西先輩。だからこそ、その分頑張ろうとか思わないわけ?」
明里の言う通りだ。もしも田西先輩に何かあったとするなら、僕はあの人の分も背負って戦うべきなのだ。
でも、正直なところ、やっぱり素直には喜べない。『訳あり』なのであれば、もしかしたら怪我をしてしまったのかもしれないからだ。そうなると必然、推薦入学の話も立ち消えてしまうことだろう。
「んもう、しょうがないなあ。ほーれ!」
「ば、バカ! こんなところで抱き付くなっていうの! 誰かに見られたらどうするんだよ!」
「いいの、見られても。だって私は大輔のお嫁さんだし」
腕にギュッと抱き付いてくるせいで、柔らかな感触が伝わってくる。温かな明里の体温と共に。
「――あと5センチ、か」
「ん? 今なにか言った?」
「別にー。なんでもないですよー。とりあえず私はね――」
「私は?」
「このまま今日撮った大輔の画像をポスターにしてくる! それを使って色々するの。大輔も我慢できなくなったら私を抱き枕にしてあんなことやこんなことでもして自分を慰めてあげてね。ウフフフッ」
「お前、変態だろ?」
【続く】