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「なぁ、いいだろ?」
龍也の猫撫で声。
「ダメ!」
私は容赦なく、言った。
「今日は帰って」
「冷てーの……」と、子供のように口を尖らせる。
こういう時、私たちの関係を錯覚しそうになる。
「二次会は男女で別れるんだし、今日は自分の家に帰ってよ。酔って迂闊なこと言っても困るし」
「俺は困らないけど?」
「私は困る」
「どうして。付き合ってる、でいいだろ」
前にも同じような会話をした。
龍也は、やましいことをしているわけではないから、私とのことをみんなに言いたいと言う。
私は、普通の恋人とは違うんだから、言いたくないと言う。
結論は、出ない。
解決も、しない。
「そもそも、付き合ってるわけじゃないでしょ? セフレって堂々と公表できるような関係?」
「俺はセフレだなんて思ってねーよ」
龍也が私を大切に想ってくれているのは、わかっている。
多分、仲間以上の感情。
私も、龍也を他の仲間にはない感情を持っている。
けれど、その感情はどうしても交わるものではなくて。
たとえ龍也が望んでも、私には受け入れられない。
「ねぇ、龍也」
「わかったよ! 今日は帰る」
「――じゃなくて」
「やめないからな」
私の言葉を遮って、龍也が言った。
「え?」
「どっちにも相手がいなきゃいいんだろ」
『もう、やめよう』
以前《まえ》に私がそう言った時と同じことを、龍也が言った。
「仲間《みんな》にも言わなきゃいいんだろ」
「龍也」
「セフレなら! ――いいんだろ」
こんなことを言わせたいわけじゃない。
そもそも、龍也はセックスだけの女なんて欲しがるタイプじゃない。
セックスと愛はイコールだと思っている。
私がそれを認めないだけ。
龍也もわかっているから、決して口にしない。
一度だけ、聞いたことがある。
『好きだよ……』
眠る私の頬にキスを落とした龍也の言葉。
嬉しかった。
同時に、苦しかった。
私では、龍也の夢を叶えてあげられないから。
「ほら、行こう」
靴を履いて顔を上げた龍也は、いつもの笑顔。
龍也の笑顔に、私は救われてきた。
だけど……。
私も靴を履き、一緒に玄関を出た。
ゆっくりと、別離《わかれ》の刻《とき》が近づいてきているのだと、感じた。