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第24話:脈動で語る都市の心臓
都市樹の最奥、律芯核(りっしんかく)――
そこは命令も光コードも届かない、
都市のすべてのリズムが始まる“心臓”のような層だった。
「ここが……鼓動の起点」
ルフォは足を止めた。
金色の羽は樹内の微光を受け、やや鈍く沈んでいた。
尾羽の端に刻まれた反射紋様も、この空間では意味を成さない。
彼の目の前には、光でも歌でもない――ただ、“脈”がある。
枝が、根が、空気すらがゆるやかに脈打つ。
命令の形ではなく、記録の形式でもなく、
ただ、何かが“生きている”ことを知らせる律動。
その隣に、シエナが立つ。
ミント色の羽根は薄暗い空間でもなお存在感を放ち、
尾羽の透明な膜は、わずかに浮かぶ粒子光を拾って震えていた。
肩のウタコクシは身を丸め、静かにその鼓動を感じ取っていた。
シエナは、尾脂腺から**「応じる」「聴いている」**の香りをほんのわずかに放つ。
命令でも呼びかけでもない――**ただ“共鳴する意志”**だけ。
すると、律芯核の中心にある大枝が、ふるりと震えた。
それは音ではなく、
目にも見えないが、
確かに体で“感じる”振動だった。
「……都市が、話してる……でも、言葉じゃない」
ルフォがつぶやく。
彼の羽がわずかに開き、空気のリズムに同調する。
脈動は、次第に一定の周期から、変化ある拍動へと移っていく。
それは、呼びかけでも命令でもない。
「今、ここにいるあなたたちへ向けた反応」。
命令で動く都市は終わった。
記録で継がれる都市も、限界を迎えようとしている。
だが、脈動だけは、生きていた。
言語よりも前、命令よりも深い――
存在のリズム。
シエナが尾羽をわずかに振るわせる。
すると脈動が、まるで彼女の拍動に合わせて再構成されていく。
歌えない者が、都市の心臓と“重なった”瞬間だった。
ルフォが小さく息を吐く。
「……命令じゃなくても、生きられるんだな、この都市」
そして、都市樹の律芯核にいたすべての脈動が、
シエナと共に、やわらかな律を刻み始めた。