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第5話:国際機関の崩壊
配信の幕開け
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは、白地に赤いラインの入ったスポーツジャージを着て、薄いグレーのショートパンツを履いていた。靴下は片方だけずり落ち、無邪気な子どもらしさをそのままに見せている。
彼はカメラをまっすぐに見て、不思議そうに言った。
「ねぇミウおねえちゃん……国連とかWHOとか、みんなを守るための会議なんだよね? でも映像見てたら、なんだか“お金の話ばっかり”してるように見えちゃったんだ」
隣のミウは、ライトベージュのニットに、淡い水色のスカート。髪は低い位置でひとつに結び、耳元には透明なガラス玉のイヤリングが揺れている。
彼女はふんわり笑って、首をかしげた。
「え〜♡ もしそうなら、ちょっとショックだよねぇ。
世界を守るために集まってるのに、裏では癒着してたら……みんな不安になっちゃうよ」
コメント欄には「やっぱり利権まみれ」「信じられない」「腐敗してる」と怒りの声が並び始めた。
Zの仕掛け
暗い部屋で、**Z(ゼイド)**が複数のモニターを睨んでいた。緑のフーディにカーキのパンツ、キャップを深くかぶっている。
画面には国連やWHOの会議映像が映し出されていた。
AIによる切り貼りで、真剣な議論の映像は変質していく。
「ワクチン供給を公平に」
という言葉のあとに、別の映像を重ねる。
「……スポンサー企業の契約が第一だ」
「貧困地域を支援する」
のあとに、声色を滑らかにつなぎ、
「……ただし資金を出してくれる国限定で」
会議室に座る各国代表の顔は真剣そのもの。だが字幕と音声は、癒着を肯定しているようにしか見えなかった。
Zは低く笑い、手元のキーを叩いた。
「これで“世界の秩序”は一気に崩れる」
炎上と分断
翌日、レイNewsが大きく取り上げた。
「国連会議、癒着の証拠映像か」
「WHO、スポンサー企業に依存?」
「市民『守ってくれると思っていたのに』」
SNSは大炎上し、各国の市民から不満が爆発。
「腐敗組織に税金を払うな」
「国際機関はもう信用できない」
加盟国同士も互いを疑い始めた。
「お前の国が主導してるんだろ」
「いや、そっちのせいだ」
会議は次々に中断され、国際機関は機能不全に陥った。
無垢とふんわり同意
その夜の配信。
まひろは白地のジャージの袖をぎゅっと握り、瞳を揺らして言った。
「ぼく……ただ“本当に国を守ってるのかな”って思っただけなのに、世界の会議が止まっちゃった」
ミウはやわらかな笑みを浮かべ、ガラス玉のイヤリングを指で軽く触れながら語った。
「え〜♡ でも、それって逆にチャンスだよ。
国民が『信じない』って決めたんだもん。
新しい仕組みを考えるきっかけになるんじゃないかなぁ♡」
コメント欄には「なるほど」「国際機関はいらない」「新しい秩序を作ろう」の声が溢れた。
結末
暗い部屋のモニター前で、Zはにやりと笑った。
「秩序を壊すのは簡単だ。次は“市民の善意”そのものを利用してやる」
モニターには、環境活動家がマイクを握る映像が映っていた。
そこにすでに赤い編集ラインが引かれていた。
無垢な問いとふんわり同意、その裏で国際機関は崩壊し、世界は“疑い”という病に侵されていった。