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重力から解き放たれ、身体が宙を漂う。
視界に映る黒景色と遠くから迫る光が、何処かへと俺の身体を運んでいるのだと教えてくれる。
光が肌に触れ、暖かさとともに何か特別な力が流れ込んでくる。
光の奔流に晒されることで、言語が、肉体が、魔力の使い方、その他様々な知識が流れこんできた。
そのお蔭で、今、俺の身に起きているのが何なのか、これからどうすればよいのかを知ることができたので、覚悟が決まった。
俺は暗闇の先にある光のトンネルを潜り抜けると、いつの間にか大地に足をおろしていた。
◇
「こたびの『異世界人召喚の儀』は無事に完了した」
太陽の光が降り注ぐ中、神官と思しき老人が両手を上げ宣言している。
周囲には期待に満ちた瞳を俺に向けている人々が立っていた。
暗闇を漂う間、この世界の常識については俺も理解している。
現在、俺こと熱海 湊(あたみ みなと)は異世界へと召喚されていた。
『おお、あれが噂に聞く異世界人』
『何という美しい黒髪なのだ』
『知的そうでいて整った容姿をしている』
『若いのに自信に満ち溢れたあの姿、さぞ素晴らしい能力を持っているに違いない』
周囲の人間が俺の噂をする声が聞こえてくる。どの言葉も俺に対する期待で満ち溢れているようで、むずかゆい気持ちが湧きおこる。
地面の魔法陣が輝きを失い、最後に俺の身体に光が吸い込まれた。
「さて、異世界人よ。召喚の際に知識が与えられているはず。こちらの言葉、状況は理解されておられるか?」
老神官の言葉に俺は頷く。
この召喚の魔法陣はこれまでも定期的に日本人を召喚していると知識で教えてくれた。
召喚されるのは現実世界で間もなく死の運命を迎えようとしていた者。異世界に強いあこがれを持つ者に限られているらしい。
これはこの魔法陣を組んだ賢者がそう条件を付けたらしいのだが、そのお蔭で召喚後のトラブルもなく、召喚者はこの世界で幸せに生きているらしい。
俺は観衆を見回すと堂々とした態度で振る舞った。
「この世界で、俺は必ず役に立つ存在となってみせましょう」
『『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーっ!』』』』』
俺の宣言に、その場が沸き立つ。これ程までに人々に望まれた経験はなく、これからの自分の人生が輝くに違いないと俺は口元が緩むのを抑えきれなかった。
「して、異世界人よ名を何と申す?」
「熱海 湊です」
「召喚の儀で能力を授かったはず。ミナトよ、お主はどのような力を持っている?」
こここそが、最大の見せ場だろう。
俺が手をかざすと瓶が現れそこに虹色の液体が入っていた。
『おおおおおおおおっ! 何と美しい輝き』
「ミナトよ。これは一体何かね⁉」
驚く老神官を前に、俺は自分が授かった能力――
「いかなる傷も癒し、万全の状態に戻せる。世界最高峰の回復薬」
――。
「【エリクサー】を作り出すことが出来る。それが俺の能力です」