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狐獣人はしばらくそのつり目がちな大きな瞳で俺を見つめたあと、背を向けてしっぽを揺らしながら去っていった。
「トマスくん? どうかした?」
レイナさんが心配して声を掛けてくれるけれど、俺は答えられない。さっきの言葉の意味を考えていて、それでいっぱいいっぱいだ。
この孤児院には人間も獣人もいて大きな子から小さな子までが一緒に仲良く暮らしている。
ベッドが沢山並んだ部屋でみんな一緒に寝るのがここの習慣。寝静まった部屋で寝返りをうちながら考える。わかっている、認めたくない動機。
楽しそうで、幸せそうに見えて、ここの街の子なのに、みんな親はいない。
父ちゃんを助けてくれたその代わりでもなんでも、結果として1人放り出された俺は何することもなく、探していたんだ。居場所を。
宿があっても優しいおばちゃんがいても、パン屋の香りがよくても、お金を持たされていても、1人だったから。
ここの寄せ集めのグループでなら俺がいてもいいかも知れないし、親がいるだけ俺はここの子たちより惨めじゃないと、マシなんだと思っていた。そう思ってしまったんだ。
こんな嫌なやつは他にいない。自分を迎え入れてくれた人たちを下に見ながら甘えていたんだ。
別に捨てられたわけじゃない。俺の願いを叶えてくれて、俺たちが負い目を感じないように計らってくれて、不自由な生活をさせられているわけじゃない、むしろ優遇されているのに。勝手に黄昏て恩をその時限りで忘れて、いまはこんな事して満足しているんだ。
俺が願った事。こんな事じゃなかったはずだ。
その日一睡も出来なかった俺は、朝になってレイナさんに、やりたい事があったからやっぱり戻ります、と言って荷物を抱えて出てきた。
あとから聞いたところによるとレイナさんたちは、良くある親子喧嘩の家出少年だと微笑ましくそして羨ましく思っていたらしい。それを聞かされたときには耳まで真っ赤になってうずくまってしまった。
孤児院に移ってからも宿はずっとおさえられていたらしく、すんなり部屋に戻る事が出来た俺はダリルにいちゃんの店に着いた。
カランカランという音を鳴らして入った先では、ダリルにいちゃんが狐獣人の子に「そうだな、すまん」と立たされて謝っているところだった。
狐獣人の子は入ってきた俺に気づくと、あっと言って俺の後ろを指差す。
えっ、と振り返るけど何もない。それから前に向き直るとそこには既にあの子は居なかった。
ダリルにいちゃんは苦笑いしながら頭をかいている。
よくわからないけど、俺の願いを告げよう。