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 ロキに右肩の関節を外され、痛みで意識が朦朧としていた俺は、その後のことはほとんど覚えていない。 ただ、骨が完全に戻った後に、有言実行と言わんばかりに外された関節を綺麗に戻された。その際に走った激痛で、俺の意識は完全に覚醒した。


「ありがとう、藪のおっさん。おかげで骨も肩も綺麗に元通りだ」


 俺はグルグルと腕を回す。右肩はロキが綺麗に外してハメてもらったためか、変な後遺症は残ってはいない。


「念の為、外した肩に変な癖がつかぬよう、特別に治癒魔法も施した。これで問題はなかろう」


 ユーゼンは自身の髭を再び撫でながら、大きなため息をつく。


「お前さんみたいに騒がしい患者は、幼子おさなごくらいだ。……いや、幼子でも、もう少し静かだな」

「そりゃー、おっさんの治療が荒いからだろーなー」


 俺とユーゼンは、互いに「はっはっはっ!」と笑い合う。……と、一瞬にして空気が凍りつく。


「二度と来るな! この若造が!!」

「言われなくても、こんな荒療治するところ! 二度と来ねーよ!!」


 俺たちは「ふん!」と、互いにそっぽを向いた。






 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁






 八尋たちが近くの露店を見ている中、セージはユーゼンへと近づく。


「すみません、ユーゼン様。元はと言えば、全ては僕のせいなので……何かあったら、どうかあの方たちをお願いします」


 そう言って頭を下げると、ユーゼンは片目でセージを見る。


「……まったく、神官様。アナタは本当に、お人好しな方だ」


 ユーゼンは小さくため息をつくと、まるで孫を見る祖父のように優しい瞳でセージを見る。


「いいでしょう。アナタ様には今回だけでなく、今まで沢山の借りがある。それに、。この街に住む者は皆、アナタのために惜しみなく力を貸すでしょう」


 その言葉に、セージは瞳を大きく震わせる。目頭が少し熱くなるのを堪えると、静かに顔を上げて笑う。


「そう……言って貰えるだけで、僕はとても幸せ者です」


 セージは軽くお辞儀をすると、八尋たちに合流する。

 その背を軽く手を振って見送ったユーゼンは、険しい表情と声色で小さく呟く。




「アナタ様のに、幸せがあらんことを……」




 そう言って踵を返し、診療所へと戻ろうとした時。ユーゼンは八尋によって呼び止められた。


「何だ、もう怪我でもしたのか?」

「んなわけねーだろ、うちの妹じゃあるまいし」

「じゃあ何の用だ? 冷やかしなら、もう帰ってくれ」

「いやさ、一つ頼みがあるんだわ」


 ユーゼンは首を傾げると、八尋はこう言った。


「おっさんの診断書と、その治療にかかった費用。それらの書類を一式書いて欲しいんだわ」

「……? なぜそんなものが必要なんだ? 治療費なら、すでに神官様から貰っておるぞ?」

「あー……なんと言うか、この街に来てからセージたちには世話になりっぱなしだからさ」


 ユーゼンの言葉に、八尋は首の後ろをさすりながら答える。


「今は無一文で、金も何もないけど……俺は俺なりに努力して、必ずセージたちに借りを返したいんだよ」


 そう言って、八尋は口元を緩めて笑った。


 八尋の言葉に、ユーゼンは驚く。




 幼いセージとロキの二人を知るユーゼンにとって、神官であるセージはまるで孫のようだった。


 セージに対する、ウィングベルグ家からの扱い。そして生まれた時から与えられた運命を、時に哀れだとも思った。

 その優しさから、時に付け込まれ、損をすることもあった。


 それでも尚、セージは人を愛することをやめなかった。


 そんなセージが連れてきた、見たことの無いと出で立ちと珍しい黒髪の人の子。

 ロキほどではなくとも、セージの優しさに漬け込み、その権力と地位を悪用するのではないかと、ユーゼンは疑いもした。


 しかし、実際はどうだろうか? この若者からは、そのようなよこしまな考えは一切感じられない。




「……わかった。用意するから、少し待っておれ」

「おっ、マジで? 助かるよ!」


 ユーゼンは診療所に戻り、引き出しから紙を取り出すと、直ぐに書き記した。


「ほれ、これでいいかな?」

「やっぱ、なんって書いてるかはサッパリだな……」

「お前さん、まさか文字が読めんのにワシに書かせたのか!?」

「あはは……まぁ、ねぇ……?」


 八尋は苦笑いしながら、頬をかく。

 そんな八尋の姿に、ユーゼンは深いため息を漏らす。


「もしワシが悪いことでも書いておったら、どうするつもりだったんじゃ?」

「いやいや、おっさんに限って、そんなことはしねーだろ」

「……なぜそう思う?」


 八尋の言葉に、ユーゼンは首を傾げては問う。

 一方の八尋は、首を軽く擦りながらこう答えた。


「おっさんの治療法どうこうは、この際置いといて。セージだけじゃなくて、あのロキも認めてるんだ。それに、こんなに腕の良い治癒師のおっさんが、悪いことをするなんて。宝の持ち腐れもいいとこだろ?」


 八尋の意外な言葉に、ユーゼンは再度驚く。そして我に返ったユーゼンは、豪快に笑いだした。


「はっはっはっ! お前さん、中々面白いやつじゃないか!」

「えっ、何? 何なんさ……って、痛い!」


 ユーゼンは八尋の背を何度も叩く。八尋は困惑しながら、されるがままだった。


「お前さん、名はなんというんだ?」

「え? や、ヤヒロ……神崎八尋だ」

「ヤヒロ……そうか、いい名だ。それでは改めて名乗ろう。ワシはユーゼン・ギークフォルグだ。もし何か困ったことがあったら、ワシを頼るといい。なーに、ワシはそこそこ顔が聞くでなぁ。お前さんたちの、ちょっとした手助けもできるだろうて」

「え? あ、あぁ……そうさせてもらうよ……って、痛い痛い痛い」


 ひとしきり八尋の背を叩いたユーゼンは、満足そうに笑う。

 八尋はただ、このユーゼンの豪快な笑いに、引きつった笑みで対応するのだった。





 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁






 そんな彼らの光景を、【光】はじっと静かに見ていた。




 小さな【光】はフヨフヨとその場で軽く漂うと、そのまま薄暗い路地へと消えていったのだった――――――。

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